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第17話

 まだ強情を張るのか、と如月は呆れた。だが森崎は、意外な言葉を続けた。 「でも、誤解しないでください。私、もう室長のことは完全に吹っ切りましたから」  本当だろうか。二年間も想っていた、と涙まで流したのに。すると森崎は言った。 「だって、男の方が好きなら、どうしようも無いじゃないですか。ゲイの方をいくら想ったって、無駄です。というわけで、今後は私情を挟まず仕事に打ち込もうと思うんで、是非ここへ残らせてください!」  そういうことなら、大丈夫だろうか。ふう、と如月は安堵のため息をついた。 「一言言わせていただくなら、ゲイならゲイって言ってくださいよって感じですけど。でも、言いづらい話ですもんね。それは仕方ないです」  一瞬不満そうな表情をしたものの、森崎は自分を納得させるように頷いた。 「隠していたのは、申し訳なかったです。……じゃあ、今後は切り替えて、秘書業務を続けると?」  念を押すと、森崎は勢い良く頷いた。 「せっかく、秘書室でここまで頑張りましたし。残していただけるなら、是非。……それに、昇格させていただけるんですよね?」  森崎が、にやっと笑う。やれやれ、と如月は思った。ショックと混乱で泣いていたというのに、そのフレーズはキャッチしていたのか。 「約束は守りますから、ご心配無く。でも、ポジションに見合った仕事はしていただきますよ? でなければ、降格もあり得ますからね」  緊張感を持たせるために、軽く脅しておく。森崎は表情を引き締めると、神妙に頷いた。その顔は意欲に満ちていて、頼もしさすら感じられたのだった。  その週末、如月と真島は、朝から大忙しだった。まずは二人して、真島の実家へ挨拶。真島は如月の家族にすでに会っているが、如月の方は初めてなのだ。真島の両親と二人の兄、その配偶者たちは、如月を快く受け入れてくれた。 「こんなしっかりした方なら安心って、皆言ってましたよ」  実家を出ると、真島は如月にそう囁いた。 「義姉たちがやけにはしゃいでたのが、唯一の不安要素ですけど。ま、指輪を見せつけまくって牽制しときましたから」 「はいはい、心配しなくても大丈夫だから。それより、今日は予定が目白押しなんだからね?」  些細なことにやきもきする真島を軽くにらみつけると、如月は彼を車に乗せた。この後真島は、社員寮を引き払うのだ。手伝い半分、入寮者たちへの挨拶目的半分で、如月も同行するのである。

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