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第18話

 道が空いていたせいで、比較的早く寮に到着した。引っ越し業者が来るまで時間があるので、二人は入寮者たちに、世話になった礼を述べて回った。 「この度は、おめでとうございます」 「ご丁寧に、ありがとうございます」  男子寮なので、メンバーは全員男だ。秘書室の腐女子たちよりは戸惑いが強いのだろう、彼らはやや当惑した様子だったが、一応は丁重に応対してくれた。  一通りの挨拶が終わると、その中の一人が寄って来た。如月がかつていた、企画部時代の後輩だった。 「如月さん、すみません。以前如月さんが担当されていた業務のことで、質問があって。少しだけお時間いいですか? 休日に、申し訳ないんですが」  後輩は、深刻そうな顔をしていた。昔から真面目な社員だったと、思い出す。チラと真島を見やれば、「俺のことはお構いなく」と言った。 「荷造りならもう済んでますし、特に手伝っていただくことも無いですから」 「そう? 何かあれば言ってね」  寮内に談話室のような場所があったので、如月はそこで後輩と話すことにした。相談は短い内容で、話は数分で終わった。 「助かりました。ありがとうございます」  後輩が、恐縮する。 「じゃあ、そろそろ失礼。引っ越し業者が来るのでね」  時計を確認して、如月は真島の部屋へ向かった。真島は部屋の前で、入寮者の男性と何やら話し込んでいる。その時耳に飛び込んで来た言葉に、如月は思わず足を止めた。 「お前、前は、蓮見さんが好き~、とか言ってたよな」  男性が、からかうように言う。如月は、眉をひそめていた。男性の口調は、どう聞いても好意的ではなかったのだ。 「社長が無理なら、秘書をってか? そこまでして、出世したいのかよ」  如月は、記憶をたどった。確か、真島や三枝と同期の男性だ。部署は、会計だったか。 「そんなんじゃないから。前にも言ったけど、俺は修一さんのこと、純粋に好きなんだよ」 「へえ? 信じらんねえけど。左遷された過去は、消せねえもんな。挽回するために、必死なんだろ? かわいそうにな」  げらげら、と男性が笑う。 「これだから、ゲイって気持ち悪いんだよなー。相手を、取っ替え引っ替え……」  もう限界だった。如月は、つかつかと二人に近付いていた。

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