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第21話

「そんなことより、蒼君。君、しょっちゅうああいう目に遭ってるの?」  如月は、真島が渡辺に『前にも言ったけど』と言っていたのを思い出した。 「別に、しょっちゅうってことは……。それに、それこそ自業自得です。入社したての頃、俺は出世したくてガツガツしてました。上の人に取り入ることばっかり考えてて、同期との付き合いをいい加減にしてたから、男連中からは嫌われてたんですよ」  自嘲気味に言いつつも、真島の握りしめた拳が震えているのに、如月は気付いていた。つくづく、蓮見は三枝に対して欲目が過ぎると思う。真島は決して、三枝より強くなどない。強気に振る舞っている分、内面はむしろ三枝より脆いのではないかとすら思えた。 「蒼君」  ふう、と如月はため息をついた。  「僕が差別されたらとか、そんな心配をしている場合じゃないじゃないか。どうして、平気なふりをして……」 「だって!」  真島は、声を荒らげた。 「前は蓮見さんに頼ってばかりだった三枝だって、今はちゃんと自立してる。俺も、修一さんに守ってもらうんじゃなくて、自分のことは自分で解決しなきゃって……」 「困った時は、正直に悩みを打ち明けるのがパートナー。そうじゃないの?」  如月は、静かに告げた。一瞬絶句した真島の腕に手を伸ばすと、如月は優しくさすった。 「自分で解決しようとか、気負いすぎないで。君はこの前、僕のためを考えてあれこれと気遣ってくれた。僕だって、君の助けになりたい」 「……」  真島が、黙り込む。タイミング良く、信号は赤に変わった。車を停止させ、助手席の真島を見やれば、彼は涙ぐんでいた。 (本当に、涙もろいんだから……)  だがそんな台詞は封印し、如月は黙って真島を見つめていた。ややあって、真島が唐突に口を開く。 「俺って、割と見た目イケてますよね」 「うん」 「仕事だって、できる方です」  そうだね、と如月は相づちを打った。 「料理だって、結構上達してきたと思うんですよ」 「知っているよ」 「でも」 真島はそこで、如月をキッと見た。 「その程度、世の中にいくらでもいますよね。何で、俺なんですか。ずっと、疑問だったんです」

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