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おまけのSS①

 如月と真島の誤解が解けた夜、帰宅した翔馬を迎えた蓮見は……。 翔馬「ただいま、悠人さん! 二人、無事仲直りできたんですよ」 蓮見「うん、今如月君からメールをもらったところだ……。(ハッ)翔馬、その頬の冷却シートは何だ!?」 翔馬「あ、これですか。二人の喧嘩に巻き込まれただけです。大したこと無いですから」 蓮見「すぐに手当てをするぞ! 痕が残ったら、一大事だ」 翔馬「手当てなら、如月さんにしてもらいましたから平気ですよ。暴力に走って申し訳なかったって」 蓮見「何、それは如月君がしたことなのか?」 翔馬「ハイ。真島の奴、合鍵を返しに来たんですよ。それで如月さん、カッとなっちゃって。彼を張り倒そうとしたので、僕、つい間に入ったんです。それで、手がかすってしまって(早口で説明するとかえって不自然だ、って如月さんからアドバイスされたもんな。ゆっくり、ゆっくり)」 蓮見(どうも妙だな。如月君が、恋人に手を上げるか? 第一翔馬に、そんな機敏さがあるか? ここは、如月君が真島君を庇っていると見るべきだろう) 翔馬「悠人さん? 本当に、大丈夫ですから」 蓮見「翔馬。もう一度聞くが、殴ったのも手当てをしたのも如月君なんだな?」 翔馬「そうですよ?」 蓮見(嘘だな。手当ての雑さからして、やったのは真島君だろう。責任を取りたいのもあるだろうが、如月君が翔馬に触れるのを嫌がったに違いない) 翔馬「それより、聞いてください。二人のすれ違いの原因はですね……」 蓮見(にこやかに、僕の目を見て話している。会話のテンポもスローだ。そういえば如月君は、高校時代演劇部だった。脚本作りだけでなく、さては演技指導もしたな) 翔馬「悠人さん、聞いてます?」 蓮見「ああ(取りあえず聞こう)」 翔馬「……かくかくしかじか、というわけです。でね、如月さんは、最後にこう仰ったんです。蓮見さんは偉大な経営者だ、社内でマイノリティ差別が起きることを許すはずが無いって」 蓮見(そんなおだてに乗ると思うのか!? 大事な翔馬を傷つけたんだ、たとえ如月君とその恋人でも、許さんぞ!) 翔馬「あの……、悠人さん、やっぱり怒ってます? 僕、これくらいの傷どうってことないですよ。それよりも、大切な友達と、お世話になった如月さんに幸せになって欲しいです!」 蓮見(うっ。翔馬のこの瞳、この訴え……。これは演技では無いなっ) 翔馬「悠人さん、お願いです。あいつを処分なんて、しないでください!」 蓮見「(あいつ呼び……。やっぱり犯人は真島君だな。まあいい。ここは翔馬に免じて許すとしよう)ああ、わかった。考えてみれば如月君には、僕らのことでずいぶん世話になったしな。真島君も、翔馬の良き友人だ。ここは水に流すとしよう」 翔馬「ああ、よかったぁ!」 蓮見「それより、真島君は、年齢上限まで独身寮に住み続けるつもりと言ったな。そういう社員は多いんだろうか?」 翔馬「ええ、かなり。家賃がめちゃくちゃ安いですからね」 蓮見「なるほど(ついでに、独身寮の家賃を見直すとするか。我が社の社員の未婚率が高いのは、そのせいもあるかもしれん)」 翔馬(悠人さん、完全に仕事モードだ。ホッ。上手く誤魔化せたみたいでよかった)  名探偵から、一転名経営者へと変わった、切り替えの早い蓮見であった。なお、男性社員らの未婚率の高さの一因が、渋い独身貴族社長(と思われている)自分への憧れにあることには、全く気付かない蓮見であった。 了

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