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第2話
天気がよく、温かくなってきている今日。少し遅いが新入社員の歓迎会らしい。
「かんぱーい」立花部長の音頭で会は始まった。
「最近、田所先輩とはどうだよ?」
同期が僕に興味本位で聞いてきた。
「最近かーなんとかついていけるようになったかなー」
「じゃあ、褒めてもらえたか?」
「全く!!!僕の事なんて見てないよ!!!早く使える人にすることしか考えてない!!」
でも、少し前に一回だけ目を見て話せたなー。ほんの数秒だけだけど。そう心の中で呟いた。
「まー、今日は飲んで忘れなよ」
空のグラスに酒を注いできた。僕は一気に飲み干した。
僕は何杯もグラスを空にしてきて気分が悪くなりトイレに行った。
トイレからの帰り、田所先輩が誰かと話してるところが見えた。少し驚いた。職場で話をしている姿なんて見たことがなかったからだ。何を話してるんだろう。
「やないくんはねーよくーやってくれてますよーすごいんですよー」
この声は田所先輩だけどベロンベロンに酔っぱらっている。
「何回も聞いたから、田所酔いすぎだ」
相手の人が開放してくれているがそんな事お構いなしに喋り続ける。
「よってませんよーーこれからのやないくんはーのびまー、、、、、、」
、、、突然声が聞こえなくなった。寝てしまったようである。
「はぁ、寝てしまって、あっ、」
田所先輩の話し相手が僕に気付いた。軽く頭を下げ、一言言ってから退散しようと思った。
「すみません。もういなくなりますので」
そうやって歩みを進めようと思ったら返事があった。
「そんなことで謝らなくていいんだよ。一応自己紹介しとくと田所と同期の大橋だよ」
「大橋さんですね。僕は、、」言い終わる前に遮られた
「柳井くんでしょー。知ってるよー今日散々田所から聞いたもん。」
「えっ、田所先輩からですか!?」
どうしてそんなことがあるのか。夢ではないのだろうか。あんなに飲んだんだ。僕にとって都合のいい夢だ。小さく腕をつねってみる。痛い。現実だ。
「あはははー現実だよー意外でしょ?」
僕がつねるところに気付いて笑われてしまった。
「正直意外です。田所先輩は僕に興味なんてないんじゃないかと思ってました」
今まであった出来事を振り返ってみたがそんなそぶりは一切思い出せない。
「あはははは。そう見えるよねー、でも実際はよく君のこと見てるし、認めてるよ」
「そうなんですか!?」
驚きのあまり声が上ずった。
「普段は全く顔に出さないし、目も合わせてくれないでしょー。でもね、お酒が入るとさっきみたいに正直になるんだよねー」
「そうだったんですね」
意外だ。常に完璧な田所先輩にそんな一面があるなんて。
「だから、田所の気持ちが知りたいならお酒を飲ませるといいよー。まぁ、田所が飲みに行くことなんて滅多にないから難しいと思うけど」
そうだよなー。直接その言葉を言ってもらいたかったけど。
「そんなこと教えてくれてありがとうございます」
「いやいや、田所が注目する君に興味があるだけだよー。それじゃあ」
「お疲れ様です」
僕は自分の席に戻った。田所先輩は僕のことを見てくれていたんだ。認めてくれていたんだ。
「おい、何かにやにやしていいことでもあったのか?」
近くにいた同期に聞かれた。
「いや、何でもない。酔ってこんな感じになっただけだよ」
顔に出るほど嬉しがってたのか、僕。何だろう。今まで、顔は良いけど厳しくて僕の事なんて見てくれていないと思っていた田所先輩。でも、実は見てくれていた。認めてくれていた。そんな田所先輩に惹かれている自分がいる。あんなに鬼田所と思っていたんじゃないのか。いや、この気持ちは酔ってるせいだ。気のせいに違いない。そうだよな。
僕はそう思いながら残りの歓迎会を過ごした。
◇ ◆ ◇ ◆
歓迎会から1週間が過ぎた。それでも田所先輩への思いは消えなかった。好きなんだ。そんなことを考えていると仕事への集中が切れてミスが多くなった。
「柳井くん。ここ、間違えてますよ。」
「すみません、やり直してきます。」
また間違えてしまった。仕事と気持ちは別だ。せっかく田所先輩に認めてもらったのに無駄になってしまう。
僕は今まで以上に認めてもらおうとより仕事に励んだ。いろんな仕事をすればするほど認めてもらえている気がした。
早く仕事をこなせるようになりちょっとした時間ができるようになった。
「誰か今、手が空いてる奴いないかー?」
、、、大橋さんが手伝いを求めてる。
「今、空いてます!!」
手を挙げてアピールした。
「じゃあ、柳井くんちょっと来て」
「分かりました」
小走りで大橋さんのところに向かった。
「何すればいいんですか?」
「この段ボールを資料室に運んでほしいんだよ」
すぐそばにおいてある段ボールを指さして言った。
「分かりました」
僕は近くにあった段ボールを重ねて持ち上げた。
二人で資料室に段ボールを運び終えた。
「ありがとー。おじさんみたいな僕と違ってやっぱり若いから楽々運べちゃうねー」
「そうでもないですよー。言っても大橋さんもまだまだお若いですよね」
「僕?そんなお世辞言ってもダメだよー10歳の差は舐めたらだめだよー。おじさんみたいに30代になるとすぐに来るよ」
腰を叩きながらそう言った。
「そんなものなんですね」
「そうだよー。そういえばさ、、柳井くん田所のこと好きだよね」
「えっ、」
僕は驚きのあまり棚にぶつかってしまった。
「隠さなくていいんだよー」
何とか誤魔化せないか。でもあの目はすべてが見えている目だ。無理だ。
「えーっと、そうです。どうしてわかったんですかー」
それよりもどうしてわかったんだ。
「うーん、見てたらわかるよー」
顔に出てたのか。
「、、、それなら他の人も分かってるんですかね?
「そこは大丈夫と思うよ。おじさんは他の人より君のことを見てたからー」
、、、他の人より見てた?少し引っかかるがいいだろう。それより知られていないことの方が大事だ。
「なら良かったです」
「でも、田所は柳井くんとは違って恋愛対象は女だけど」
急に突き付けられた現実。僕みたいなゲイは相手にしてくれないのだろう。
「やっぱりそうですか、、」
見ないように。知らないように。気付かないように。そして来たことを改めて言われると落ち込んでしまう。
「それを知っても諦めないの?」
いや。でも、まだ駄目だとは限らない。
「まだ玉砕してませんからーアタックして考えますよ」
「そっか、、諦められないかー」
大橋さんが徐に僕の方に近づいてきた。
「どうしたんですか」
大橋さんは僕を壁に押し付けて逃げられないようにしてきた。
「おじさんねー柳井くんみたいな子好みなんだよねー」
さっきまでの優しい雰囲気が消えた。狙われる。そんな気がした。
「柳井くんーおじさんに抱かれない??」
そう言って僕のお尻に手を這わせた。
「やめてください!何するんですか!?」
「何するって??言わなくても分かるでしょー田所じゃなくておじさんと仲良くしようよー」
「嫌です!!!」
僕は大橋さんを押しのけて出口まで走った。
「おじさんにしたこと覚えておくんだよ」
何とか大橋さんから逃げることが出来た。何だ。普段優しい大橋さんが実はあんな人だったとは。
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