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第3話
朝、少し早くデスクに着くと今日までの仕事が手つかずの状態で置かれている。こんな仕事あっただろうか。いや、なかった。どういうことだ。考えても仕方がない。僕は慌てて入力を始めた。
「おはようございます」と他の人がぞろぞろと出社し始めた。大橋さんが来たとき僕の方を見てニヤリと笑った。
僕はすべてを察した。僕が応えなかった嫌がらせだ。僕はむきになって終わらせた。
終わらせて立花部長のところに持って行った。
「柳井くん。これ、今日までのやつだよね⁇どうして今さら出すのかな???」
機嫌の悪いタイミングに持って行ってしまった。
「すみません」
こんな時はただ謝って、怒りが収まるのを待つだけだ。
「すみませんじゃないよね?新人だからってもう社会に出てるんだよ⁇」
これが狙いか。背中で大橋さんの喜ぶ様子が感じられる。
「いや、、でも」
「でも???なに!?言いたいことがあるの???」
じりじりと僕の前に迫ってくる気迫。
「いえ。何もありません」
「分かる⁇期限が今日までだからってぎりぎりに出すものじゃないの」
「はい。これからは気を付けます」
これで終わりか。そう思ったがまだ続く。
「ほんとにわかってる⁇柳井くんのために言ってるんだよ⁇」
「はい、分かってます。」
早く終わってくれよ。
「ちょっとすみません。私の方からも一言いいでしょうか。」
後ろから田所先輩の声が聞こえた。
「柳井くんの期限がぎりぎりになったのは私の指示にも問題がありました」
「いや、でも、、実際遅れているのは柳井くんだから」
たじろぐ立花部長の姿。
「そこは教育係の私にお任せいただけ頂けないでしょうか?」
鋭い目つきで立花部長のことを見つめる。
「そこまで言うのなら、田所に任せるよ。これっきりだからね?柳井くん」
やっと解放してくれた。
「分かりました。大変失礼しました」
田所先輩まで頭を下げてこの場は解決した。
席に戻る途中、大橋さんの悔しがる姿が見えた。
「柳井くん。今日の夜、時間ありますか?」
「ありますけど」
「では今日の夜は私と飲みに行って話したいことがあるので空けておいてください」
「分かりました」
突然どうした。話っていったいなんだ。やっぱり今日のことだよな。今怒らない代わりに夜怒るのか。
◇ ◆ ◇ ◆
僕は仕事が終わり田所先輩に付いていき飲み屋へと向かった。
「予約していた田所です。」
わざわざ予約してたんだ。店員は予約表を確認した。
「田所様ですねこちらへどうぞ」
僕らは個室に通された。個室。人目がないところ。そんなに怒られるんだ。僕。
「柳井くん。私のおごりなので好きに頼んでいいですよ。」
「ありがとうございます」
僕はそう言われたものの遠慮して注文した。テーブルに頼んだ品が揃い、最初の時間はたわいもない話を交わした。
そうして二人とも酔いが回ってきたとき田所先輩は言った。
「柳井くん。今日のことについて説明してください。」
どうしよう。全てを言うか。でもそんなこと言うと資料室のことも言うことになる。気持ちまで知られてしまう。
「出社した時に今日までの仕事が置いてありまして、僕の忘れかと思ってやりました、、、それで田所先輩にまで迷惑をかけてしまって、、すみません」
「柳井くんには悪いところがあります。顔を上げてください。」
「なんですか?」
僕と目を合わせて話してくれる。
「それは大変な時、私に相談しなかったところです」
「それは、、普段から忙しそうにしている田所先輩に迷惑をかけるなんて」
「迷惑ではないですよ。問題になってから言われる方が迷惑ですよ」
「これからは気を付けます。」
「いいですね。私にとって柳井くんは大切な人なんですから」
「わかりました、、」
最後の言葉は聞き逃すところだった。大切な人。田所先輩が僕のことを。僕は心の中だけで言ったと思っていた。
「、、、大切な人」
そう僕が口から出ていた時、田所先輩は顔を赤くしていた。
息を一息ついて田所先輩は言った。
「変に思われるかもしれませんが柳井くんのことが大切なんです。好きなんです。」
失敗したとバツが悪そうな顔。慌てて言葉を続けた。
「年上の、それも男に言われても嬉しくないですよね。今のことは忘れてください。」
もう、訳が分からない。今まで僕だけの思いだと思っていた。諦めかけていたこの気持ち。
「忘れられません!!僕も田所先輩のことが好きです!!」
驚いた顔をしてこっちを見ている。
「この気持ちは私だけじゃないんですか」
確認するように聞いてきた。
「僕も同じ気持ちです!!」
はっきりと元気な声で告げた。
「それでは私と交際していただけませんか?」
「こんな僕でよければ喜んで。」
僕らは目を合わせ、優しく微笑んだ。
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