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聖なる力の秘密 4
「えっと……信じられないかも、しれないけれど……」
促され、その後に自然と言葉が続いたのは、相手がシンだからだろう。外見からして自身とさほど変わらないような年齢に見える彼は、父のような度量の広さを感じていた。
時には少年のように、そして時には父のようにも感じる不思議な男。レイヴンは意を決したように自身の持つ特殊能力について、シンに語り始めた。
「僕には……他人の怪我や病気を治す特別な力があります。でもそれは薬を作ったり、ツボをついたりするわけではなく……僕が誰かに触れることで、その人の怪我や病気を治すことができるんです」
「へえ。触れるだけで?」
「はい。昔から伝わる……『手当て』、です」
それは文字通り、手を当てるということ。夜通し、シンの手を握っていたのも、怪我の痛みの緩和や回復の為だった。
レイヴンはたどたどしくも説明を続ける。
「それで、さっきシンさんの飲み物に僕の血を混ぜたのは、その力の源というか……万病に効く薬、のようなもので……触れずともそれを飲めば、あなたのような大きな怪我でも治すことができ……ます。効き目は人に寄るんですけれど、シンさんの場合は一滴程度でも止血になってくれました。なので……回復を早める為に、もう少し飲むことを続けてもらおうと思って……」
黙って勝手なことをしました、と。レイヴンは声を小さくした。
シンはといえば、頤部に手を添え「ふうん」と相槌を打った。彼が真剣にこの話を聞いてくれているのだと思うと、レイヴンの舌は幾分か軽やかに回った。
「今のシンさんの身体は、裂けた皮膚や中の傷ついた臓器を極々薄い膜のようなもので覆っていて、保護の状態にあります。ええと……つまり、身体の細胞が修復に追いつくまでの仮の細胞……と言えばいいんでしょうか。なので、飲み物や柔らかい食べ物程度なら、飲食をしても大丈夫だと思います。ただ、これは一時的なもので、無理に動いたり、まして走ったりすれば、すぐに傷口が裂けてしまいます。だから、しばらくは横になって安静にしているのが一番……」
「質問していいか?」
ここで、それまで話を遮らなかったシンが真剣な表情のまま右手を上げ、レイヴンに尋ねた。ビクッと肩を震わせるレイヴンは、コクコクと頷いた。
(やっぱり、荒唐無稽の話だと思われたのかな……)
レイヴンは縮こまりながら、「どうぞ」と促した。
「その万病の薬とやらは、レイヴンの血だけの話か?」
「ほえっ?」
だが予想外の質問内容にレイヴンは拍子抜けし、間抜けた声を上げた。
(荒唐無稽だと思われたわけじゃ、ない?)
どころか、レイヴンの話を信じた体(てい)での質問だ。
ただそれだけのことではあったが、シンの問いかけはレイヴンの中で、何かが許されたような気がしたのだ。
しかし、その後に続いたシンの言葉が、レイヴンの頭を沸騰直前にまで追い詰めた。
「オレは昨日、レイヴンの唇をキスを通して堪能しただろう。ほら、まだ若いし久々に人相手にキスをしたもんだから、死にかけていたっていうのに驚くくらい身体が元気になったんだ。あの時はまだ頭が朦朧としていたから、単純に性的興奮によって気力、体力ともに漲ったのかと思っていてな。ああ、誤解しないように言わせてもらうと、レイヴンの唇は白玉のように柔く口の中も綿飴みたく甘かったから、感想としてはさっき飲んだ蜂蜜入りの山羊の乳よりも美味かった。けれど、今の話からするに、レイヴン自体に甘みを帯びていたのがその特殊な体質によるものだとしたら、唾液も治癒に対し有効なのかと思ってな。違う?」
最後にコテン、と首を傾けたシン。仕草だけなら可愛いらしく映るそれだったが、レイヴンはといえば……。
「あ…………あ、あぅ…………うぅ……!」
パクパクとまるで餌をねだる金魚のように口を開閉させ、耳まで真っ赤にさせながら硬直していた。
「ん? どうした?」
「……っ……み、見ないで……く、くださ……」
怪訝そうに尋ねるシンが、何も言わないレイヴンの顔を覗き込むようにして窺った。
レイヴンは椅子に座りながらも身を捩り、顔を手で隠しながらも何とか言葉を発するよう、その唇を動かした。
「ぼ…………僕の、身体…………ぜ、全部がそう……です……」
つまり、血液だけではなく、レイヴンの身体を構成するすべてのものがそうであるということ。
村の男達がレイヴンを慰み者として抱くのも、ただ罰を与える為ではない。レイヴンと接触し、彼の身体から排出される体液に触れることで、漁という体力仕事で疲労困憊となった身体を、強制的に回復させる為でもあった。
また実証はされていないものの、自身の肉や骨に関しても同様の効果が得られるだろうとレイヴンは考えていた。
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