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プロローグ 2

 優成を待っている時間はあっという間に過ぎる。約束の時間を五分過ぎ、十分が過ぎ……いつも遅れたことのない優成がなぜか姿を見せない。こうなると途端に時間の流れがゆっくりになった。 (優成、どうしたんだろう。時間に遅れるなんて今までなかったのに)  少し神経質で細かいことに厳しい優成が、約束の時間を破るなど考えられない。もしかして事故に遭ったのか……と悪い想像で頭がいっぱいになる。いても立ってもいられなくて、瀬那はスマホを取り出してラインメッセージを送る。しかし数分経っても既読にはならない。 (優成……?)  どくどくと心臓が嫌な音を立て始めた。何度メッセージを送っても返事はない。そうしているうちに三十分が過ぎ、一時間が過ぎていく。瀬那は優成のスマホに電話を入れる。だが応答はなく、瀬那はますます焦るばかりだ。もう何十回とかけたが、すべて繋がらなかった。 (胸騒ぎがする)  瀬那は待ち合わせ場所から少し離れて、その周囲を歩き回った。もしかしたらそこまで来ているかもしれないと思ったからだ。メッセージも既読にならない、電話にも出ないのに、そこまで来ているなんて思うのはおかしいかもしれないが、あの場所に一人でじっと待っていられなかったのだ。 (優成、どうしたの? 優成……っ)  待ち合わせの時間から二時間が過ぎても、優成は待ち合わせ場所には現れなかった。レストランの予約時間は過ぎて、人が行き交い賑やかだったツリーの周りは人の姿がまばらになってくる。それでも瀬那は優成を待ち続けた。  幸せだった日々を思い出す。瀬那が作った料理を美味しいと言ってくれた優成。  プレゼントを渡したとき、喜んだ優成は瀬那を抱き上げ、子供にするように体を高く掲げられた。お金を貸してほしいと言われたときも、嫌な顔をひとつしないで貸したし、仕事が忙しい優成の邪魔にならないように家でも気を遣った。内助の功とでもいうように振る舞っていた瀬那は、優成に尽くすことで愛情を示していた。だからこんな風に連絡が取れないことが不安で仕方がない。  ここ最近、なにか優成の気に障ることをしただろうかと唇を噛んで考え、しかし瀬那は小さく首を振った。 (ずっと順調だった。なにも問題はなかった……喧嘩もしてない、優成の機嫌もよかった)  その日、終電がなくなるまで待っていたが、優成とは会えないまま待ち合わせ場所で一人きりで時間を過ごした。既読にならないラインに『今日はもう帰ります』とだけ入れて送り、瀬那はその場から歩き出す。  足を動かすと、ずっと立っていた弊害なのか関節がぎしぎしと体の中で音を響かせる。まるで自分の心が泣いているように感じる。一体、優成はどこにいるのか。なにをしているのか。どうして約束の時間に来なかったのか。  瀬那は肩を落とし、世の終わりが来たような暗い顔で歩道を歩く。ライトアップされた街路樹の美しさなど全く目に入らなかった。  どのくらい歩いたのか、この日のために下ろしたばかりの靴は瀬那の足を存分にいじめてくれた。さすがに歩いて家まで帰るのは無理だと思い、大通りに出てタクシーを拾うため顔を上げる。そのとき、交差点の向こう側を知った顔が、背の低い華奢な男性と連れだって歩いているのが目に入った。 「優成……?」  思わず声に出して恋人の名前を口にする。目の前を車が何度も行き交うが、瀬那は瞬きもしないで歩き去る二人を見つめていた。交差点の信号が青に変わり、瀬那は感情のまま走り出す。

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