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プロローグ 3

(嘘だ……嘘だ、嘘だっ! 大切な日なのに! 記念日なのにどうして! 僕以外の人と楽しそうに、笑顔で、歩いてるの……?)  横断歩道を駆け、反対側の広い歩道を歩く二人に近づいた。 「優成!」  息を切らせながら名前を呼ぶと、足を止めた二人が同じタイミングで振り返る。驚いた顔の優成を見て喉の奥が苦しくなった。 「優成……今日、どうして来なかったの? 今日は一年に一度の記念日で、僕たちの大切な――」 「そういうのが面倒になったから」 「え?」  ようやく呼吸が落ち着いてきた瀬那は、優成のそっけない声音に息を飲んだ。今までに見たことのない優成の冷たい視線に、瀬那は足元から凍りつく。 「め、面倒って……なに? だって、いつも……去年もその前も、ずっとお祝いしようって、言ってたじゃないか」  優成は左腕に見知らぬ青年をぶら下げたまま、うっとうしそうに眉根を寄せている。それがさらに瀬那を傷つけた。 「見てわからないのか? お前はもういらないんだよ。飽きたんだ」 「飽きたって……そんな、僕は犬や猫じゃないんだよ!」  瀬那は優成の右腕を掴んで揺する。しかし簡単に振り払われて足元をふらつかせた。 「犬や猫の方がまだかわいげがあったかもな。お前と二、三年一緒にいたけど、まるっきり家政婦だったわ。かわいげもなかった。ベッドでもそうだったよ」  優成の口から瀬那を傷つける言葉がいくつも飛び出した。お前はセンスがないなとか、勘の鈍い奴だなとか、そういうことは何度も言われたことはある。それは自覚していたから「優成にはかなわないよ」と苦笑いで誤魔化した。 (でもこんな、ただ僕を傷つけるだけの言葉なんて――初めてだ)  優成のきつい言葉を浴びせられ、瀬那は唇を震わせた。これまでの優成を思えば、到底信じられない。 「こ、これ……優成が欲しがってた、初期ロットの時計。やっと手に入ったんだ。今日、これを渡そうと思ってた。ねえ、今からでも食事に……」  優成からの言葉を聞かなかったかのように、瀬那は不自然な笑みを浮かべながら手に持っていた袋を優成の前に差し出した。しかし隣で黙って聞いていた青年が、ムッとした顔でそれをたたき落とす。 「あっ!」  アスファルトに叩きつけられた紙袋から、時計の入った白い箱が転がり出た。瀬那は路上に膝を突いて、落ちた箱を拾い上げて中を確認する。時計の風防が割れていないのを見てホッとした。 「あんた、バカなのか? 優成はもうあんたと一緒にいる気はないんだって。今は俺といるのが楽しいの。ちょっと長く付き合ったかもしれないけど、たぶん俺たちはあんたよりもっと長く一緒にいると思うよ。だからそれを持ってさっさと帰れよ」  頭の上から名前も知らない青年の言葉が降ってくる。しかし瀬那は無意識にその声を意識的にシャットアウトしていた。 「これ、買ったんだ。へえ、いいじゃん」  瀬那の横で優成がしゃがみ込み、手の中の時計を覗き込んでくる。箱を袋にしまうと、優成がそれを瀬那から取り上げた。 「あっ……」 「誕生日プレゼント、もらっとくわ。買い取り査定でいくらになるか楽しみだぜ」 「優……成、ねえ、そんな、嫌だよ……」

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