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プロローグ 4

 こんな日に別れるなんて最悪だと思った。いい思い出しかない今日を、この日だけは綺麗なまま覚えていたかったのに――。 「しつこいな。もう終わりなんだよ。少し前からお前のことは冷めてたし。それに気づかないところも俺をイラつかせんの。わかる?」  瀬那は必死になって優成の右腕にしがみつく。しかしそれを乱暴に振り払われた。こんな形で終わりたくない。瀬那はなりふり構わずに優成にすがった。 「嫌だ……、嫌だよ優成! どうしてそんなこと言うの? なんでもする、優成の好きなようにするから。だから今日……別れるとか言わないでよ」  涙声の瀬那は再び優成の腕にしがみついた。今度は簡単に振り払えないように強く腕を握る。 「離せよ! もう終わりだって言ってんだろ! しつこいな!」 「嫌だ! 優成、考え直して、お願い! 優成!」  人生でこんなにしつこく食い下がったことはなかった。昔から協調性はあったが、単に自分の意見を持たず人の意見に流されただけだ。押されると飲まれるし、嫌だと言われたら素直に受け入れ、それ以上は粘らなかった。でも優成に捨てられたらどうしていいかわからない。優成に関してだけは譲れないのだ。もし捨てられたら、他に自分を必要としてくれる人がこれから先、現れると思えない。だからなりふり構っていられなかったのだ。 「しつこいって言ってんだろ! 離せよ! このっ!」  しかし一生に一度の懇願も冷たく拒否された。瀬那の腕を強引に引き離した優成が、華奢な肩を思い切り突き飛ばしてくる。 「……っうわ!」  強く押された瀬那はバランスを崩して足をふらつかせた。それだけならよかったが、最悪なことに足元にある縁石に気がつかず踵を引っかけてしまう。 「あっ!」  瀬那は必至に両腕でバランスを取ったが、体は後ろ向きに、さらに車道の方へと倒れていった。 「優成!」  助けを求めるように手を伸ばし、恋人の名前を叫ぶ。驚いた顔をする優成が見えたが、手を伸ばしてはくれなかった。  死ぬ前は今までの出来事が走馬灯のように脳裏を過(よぎ)ると聞いていたが、そんな現象は一切起きなかった。  すべてがスローモーションのように見え、目前には眩いほどの車のライトがゆっくりと近づいてくる。  もう避けられない。  瀬那はその白い光に吸い込まれるような感覚に陥った。  次の瞬間には意識がなくなり、瀬那はブラックアウトしたのである。

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