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ランニング

―土曜日  とある日の休日。会社に行くでもないのに森加瀬玲はいつも通りの時間に起きた。毎日の習慣とは恐ろしいもので、休日でさえも自分をコントロールしてしまう。ふと天井を見たら朝の六時四十五分。何をするでもなく天井を眺めていると思いついた。 ”そうだ、ランニングをしよう”    普段の俺なら絶対しない。当然思いつきの行動なので本格的なランニングウェアは用意できない。きっとネット通販で頼んでも届くのは明日とかだ。おそらく、そのころには飽きている。多分。  そうと決まれば実行に移す。会社勤めになって学生の時に比べ、食事に対する意識があいまいなものになっている。そういうのと相まって二十代後半の体はわがままボディになっていくのだ。この前BMIを測ったときは肥満レベル1ギリ手前。酒の飲みすぎと揚げ物のオンパレードで俺の腹は肥えている。久しぶりの刺激を与えようじゃないか。文句を言うなよ俺の体。    さすがにすぐ走り出すのは少しあれだったのでパジャマからジャージに着替え、歯磨きをして寝ぐせを整える。どうせ走るときに前髪掻き揚げて走るんだ。はなから手の凝ったセットはしない。  準備ができて玄関のドアを開けた。玄関がオートロックで勝手にしまる。カギとスマホをもっていざ出陣。アパートの階段を降りてもクソ寒い日の朝。誰もいるわけがなかった。 『この前走った時よりペースが乱れています。落ち着いて走りましょう』  巷で噂のリンゴの会社が売り出した時計をつけて走っているとイヤホンから機械音が放たれた。思うがままに走っていると怒られた。別にいいじゃない。俺が好きに走ってるんだから。 「おーい森加瀬―」  なんか遠くから誰かに呼ばれた気がする。イヤホンをつけているからよくわからないがきっと気のせいだろう。時々誰かに呼ばれて振り返ると誰もいない。こんな事を繰り返していると早起きの近所のおばちゃんから「振り向きおにーさん」というあだ名がついた。一体何をしたっていうんだ。 「なぁ、無視すんなって。」  脳死の脳みそと会話してると声の主はほんとにいた。何気なく俺の肩に手をのせている。 「森加瀬、おはよ。珍しいなお前がこの辺走ってるなんて。なんかあったのか?」 「おはよ。別に何もない。早起きしたから走ってるだけ。ちーちゃんは?」 「俺は日課をこなしてるだけだよ。最近ちょっと食べすぎちゃってさー。健康診断にちょっと引っかかりそうなんだ。」  陽キャis陽キャな笑顔は寝起きの俺にはまぶしかった。アイマスク付けて走った方が良かったかな。てか、なんでここにいるんだ水沢智景!お前のコースだって知らなかったぞ。 「そうなんだ。俺も同じ感じ。」 「あのさ、よかったら一緒に走らない?俺、一人で走るの苦手なんだよねー。」 「そう。俺はどっちでもいい。ちーちゃんの好きな方にして。」  なんでコイツと一緒に走らんといかんのだ。どちらかというと一人でのびのび走りたいのにちーちゃんの頼みでついつい聞いてしまう。俺は結構お人よしなのだ。 はぁ…、はぁ……!  何コイツ。めっちゃ早いじゃん…。追いつくのがやっとだって…!  普段から走り込んでいるコイツのスピードは俺にとってはすごくきつい。自分を苦しめるような走り方をしてしまった。すまん、マイボディー。 「森加瀬、死にそうな顔してんな。一回休憩しようか。」 「…別に!疲れて、ない…はぁっ、まだ、余裕だし!」 「よし、休憩しような。」  こっちは走るのもやっとというのに、何事もなかったような顔をして話しかけてくるちーちゃんに腹が立つ。体力面でも俺はコイツに勝てないのか。(勝手に対決してる) 「あの公園で休憩な」  勝手に決められてるし……。まぁ、休めるならいいか。

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