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帰宅

―水沢宅 「はぁー疲れたー!いい汗かいたー」  あの後結局池一周して、公園を通り過ぎて自宅をも通り過ぎてちーちゃん宅に直行した。そしたら途中で近所のおばちゃんにかぼちゃを二つ貰ってしまった。今年は大量にできたらしい。 「ほら、これで汗拭け」 「ありがと」  玄関を抜けてリビングにお邪魔するとちーちゃんがタオルをくれた。なんか、なんか、熱い。ランニングって健康にいいもんな、そりゃ血行だってよくなる。もしかして玉ねぎとランニングをすれば俺は血液サラサラ人間になるんじゃないか? 「森加瀬、だいぶ汗かいたろ。風呂入る?」 「いや、さすがにそこまでしてもらうのはちょっと気が引ける。」  朝飯を作ってくれている時点でだいぶ世話になっているのにこれ以上はしてもらえない。というか飯でも十分過ぎるぐらいなのに。うー、本音を言えば風呂には入りたい。でもそこまでしていいのか…。 「着替え、俺ので良ければ貸すよ?」 「うん、あのね。話聞いてた?気が引けるって言ってんだよ。察せよ。」 「俺は風呂上がりの森加瀬が見たい」  何真顔でやばいこと言っちゃってくれてんだこの上司。俺、もしかして早く帰ったほうがいい?いやでも、風呂入りたいのは事実なんだよな。さて、俺はどうするのが正解なんでしょうか。 「さっきの発言は目を瞑るとして。風呂、ホントに入っていいの?」 「いいぞー。むしろ、入ってる間に朝飯作るからそっちの方が俺的にはうれしい。どうしても入りたくないっていうなら…まぁいいけど。森加瀬が決めて」  まぁ確かにな。時間の有効活用はしたい。言い負かされた感強いけどおとなしく風呂入るか。入っていいよな?入るぞ、本当に。 「ほんとは入りたい。あの、その……着替え、貸してください」  多分サイズ合わないのは知ってるけど!てか、同じぐらいの運動量でなんで俺は背が伸びなかったんだ? 「わかった。じゃあ、これ。今風呂場の暖房付けるから待ってて」 「あい」  なんか、道端に捨てられて保護された猫ってこういう気分なんだなって思った。何でもしてくれるじゃん。どうした、ちーちゃん。会社での俺への態度と180度違うじゃん。  風呂場に消えてったちーちゃんが戻ってくる前に椅子に座らせてもらう。ちょっと座り心地がいいのはいったい何なんだ。俺も今度椅子買う時はこれにしよう、絶対。 「森加瀬?」 「んー?」 「あったかいの出たから入って。」 「わかった。」  ちーちゃんに言われてさっき座ったのにまた立ってしまった。そして案内されるがままに風呂場へと向かう。介護人か俺は。風呂ぐらい入れるわ。 「ごゆっくり」  何故か微笑むようにしてちーちゃんは台所兼リビングに引っ込んでいった。さっそく脱衣所で少し汗の匂いがするジャージに手をかける。バッと脱ぐと鏡に自分の肉体が映った。筋肉がついてれば、「あら肉体美」って言えたのになぁ。  風呂場のドアを開けると白い煙がモクモクとこっちに来た。脱衣所も暖房が入っているにしても寒い。全裸になって風呂場に突撃だ。 (あったかい。生きてる心地する)  さっきまで氷点下に近い温度の中を半時間走っていたのだ。体は芯まで冷えている。凍っている体を溶かすようにシャワーが降りかかってくる。至福の感覚。風呂の中で過ごしたい、そのレベルで幸せだ。 「森加瀬あがったー?」  遠くからちーちゃんの声が聞こえた気がする。当たり前か。だってちーちゃんの家だもん。ちーちゃん以外の声聞こえたらそれはそれで問題。 「まだ上がってない。でも、もうちょいで上がる」  リビングに聞こえるぐらいの声量で返答した。風呂の中でめっちゃ響いた。うるさい。きっと聞こえた事を願ってボティソープを流した。

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