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朝ごはん
「どうだった?」
風呂から上がって髪を拭きながらリビングに行くとホカホカの食パンにベーコンとほうれん草があった。普段の俺なら絶対しない組み合わせだからかすごくおいしそうに見える。
「丁度良かった。でも、ごめん。先に風呂入っちゃって」
「いいよ。どうせ後から入るし。それより食べよ?冷めるとほうれん草、おいしくないから」
促されるままに椅子に座らされた。いざ食材たちと向き合うとすごく、ホカホカしてる。テレビで見る宣伝ぐらいホカホカしている。
「森加瀬、そんなに腹減ってんのか?」
「減ってる。お腹ならないようにするのに精いっぱい。客人の分際であれだけど、早く座れよ。」
「はいはい」
俺を先に座らせたのになぜかキッチンで油を売っているちーちゃんに着席させた。トーストが俺を呼んでいる。だから早く座ってくれ。
『いただきます』
空腹の限界に挑んでいた俺の体は真っ先にトーストを口に含んだ。
”うめぇ”
ランニングをして程よく消化した腹にあつあつのパンが落ちていく。喉元を通る時までベーコンの塩気が香ばしく残っていた。マジうめぇ。
「森加瀬、めっちゃにこにこしてるじゃん」
「まぁね。ちーちゃん天才かもしんない。」
「こんなので天才とか言われてもなぁ。あ、ホットミルク作ったからどうぞ」
食パンで口の中の水分が奪われたぐらいの頃にちーちゃんがホットミルクをもってきた。あぁ、消化器官が喜んでいる。このままずっと食べていたい。てか、マジで水沢宅の居心地が良すぎて。ちーちゃんはいなくていいけどちーちゃんのお家が欲しい。
「森加瀬、めっちゃ食いっぷりいいな。」
「成人男性の食欲なめんじゃねーよ。」
こういうことするからBMIちゃんが肥えちゃうんだよ。食べる事は好きだけどのちの自分に帰ってくるんだよなぁ。帰ってきてほしくないなぁ……。悪いことではないけど罪だ。罪悪感と戦いながら最後にホットミルクを飲んで一息ついた。
『ごちそうさまでした』
さっきまで湯気を上げていた皿の上には冷たくなった空気が乗っている。そしてほくほくのトーストは俺の胃の中で漂っている。おいしさに負けてドカ食いしてしまった。
「あのさ、ちーちゃん。さすがに世話になりっぱだから皿洗いさせて?」
「いやいいよ。ほうれん草消費してもらったし、一緒に走ったし。お礼させて。」
「お礼は風呂と朝飯でいいって。頼むから洗わせろ」
ちーちゃんが頑なに俺に皿洗いさせてくんない。ちょっとどころかかなり手伝うのに。なんでやらせてくれないんだよ。やらせろよ。
「なんでそこまでしてやらせたくねーんだよ」
「別に。ただ寛いでる森加瀬が居るだけで幸せ感受してるだけだし!ほんとはもっと一緒に居た……っごめん、今のは忘れて」
何かの拍子でちーちゃんの内なる感情が流れ出た。てか、君俺にそんなこと思ってたの?俺以外に向けなよ。
「なんでもない」
「そこまで言うならわかった。おとなしく待ってる。」
言い負かされたような気分になった。大した口論もしてないのに。てか、ちーちゃん絶対彼女から感謝されるタイプの彼氏じゃん。
「ちーちゃん、ごめんな。結局全部やらせて。今度一緒に社食でも食いに行こうな」
結局あの後ちーちゃんが全部皿洗って片しちゃった。その間何もすることがなかったとは言えない。さて、家に帰って撮りためた朝ドラでも見ようかな。
「じゃあな、森加瀬」
「おう。飯、うまかった。じゃーな」
じゃーな、といった短い返事を後にして水沢家の自宅から出た。普段は見れないちーちゃんの一面を見れてちょっとうれしかった。
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