6 / 66

第1話-5

「いやぁ、お待たせしてしまってごめんなさいね〜」 その後小一時間待ち、ようやく診察がウェインに回ってきた。 あの後マシューがチャーリーを引っ張っていったきり、二人には会っていない。 ウェインは、目の前に座る(おそらく遠い国にルーツを持つであろう)医師に質問することにした。 「あの、ここはどこなんです?この地域にこんな所……」 「まあまあ、とりあえず先に診察ね。君ちょっと危ないから。ほら、目を瞑って」 あっさり遮られた。ウェインは苛立ちを覚えつつも、ひとまず医師の言うとおりにする事にした。 目を瞑ると、「首筋に触るからね〜」と医師ののん気な声と共に首筋にしっかりと手の感触。 訳がわからない。なんの診察なんだ? 「じゃ、アレと会った時のことを出来る限り思い出してくれるかな。時系列に並べてくれると尚よし」 「はぁ?」 「いいからいいから。ほら早く」 「はぁ……」 アレ、アレってアレだよな? ウェインはそんな事を思い出したくは無かった。 それに、チャーリーから思い出さないで、と止められている手前思い出してもいいものなのか? 「……あっ、チャー坊に止められてる感じ?じゃあそれは無視して思い出して」 チャー坊、というのはチャーリーの事だろう。この医師は彼と親しいのだろうか。 アレを思い出す……恐ろしい、が、ここは素直に従うことにした。とっととこんな所からおさらばしたい気持ちの方が強かった。 アレ。暗い路地にいた。黒い影をそのまま上に引っ張り上げたような見た目。高さは170前後。アレが人間でないことは霊感だの第六感だのオカルティックな感覚と一切縁がないウェインでもすぐに理解出来た。不気味で気持ち悪かった。体が石になったかのように動かなかった。目がなかったが、冷たく人ではないような視線を感じた。それからぐん、と彼に音もなく接近して……そこで記憶が一旦途切れ、意識が戻ると心配そうに彼を覗き込むチャーリーがいた。それからは例のコーヒーショップだ。 「これで全部かな?」 「え?ああ、まあ」 手の感触が無くなったので目を開けると、医師がカルテに何かを書き込んでいた。ふむふむ、としばらく無言で何かを考えた後、ウェインに改めて向かい合って言った。

ともだちにシェアしよう!