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第3話-1

「ご機嫌だな?」 マシューはキッチンで晩御飯の準備をしているチャーリーに話しかけた。チャーリーは視線をフライパンの野菜に向けたまま「ええ、まあね」と返す。 「だってね、マシューとリダクナさん以外で、初めて連絡先を交換したんですよ」 「あれ、他の連中の連絡先は知らないのか?」 「それ以外は仕事用なので……。友達になれるかもしれない」 友達、というワードにマシューは片眉を上げた。 「あいつを友達に?やめた方がいい。あいつがお前に何を言ったのか忘れたのか?」 「えっ?何か言われましたっけ、俺」 マシューが小さくため息をつき、 「気味が悪い、ぶっころすって言ったんだぞ」 「ああなんだそんなこと。あれはびっくりしちゃったんですよ。いきなり慣れない場所に連れてこられたから」 野菜に調味料をかけて満遍なくかき混ぜる。 マシューはむっとして、チャーリーの背中に抱きついて少しだけ体重を預けた。 「料理中はやめてください。危ないですよ」 何回言わせるんですか。 マシューはたまに、わざと彼に怒られるような事をする。彼に相手にされたい気持ちもあるが、一番は自分を感じて欲しい。今日みたいな日は嫉妬もある。なんであんな酷い事を言うような男を庇うんだ? それとあともう一つ。 「ほらマシュー、出来ましたよ。ご飯食べましょ?」 「ああ……」 「マシュー、動きにくいです」 ガチャガチャ、と乱雑に大皿に料理を盛り付けフライパンを流しに置くと、チャーリーは体の向きを変えてマシューを正面から抱きしめた。すかさずマシューはチャーリーの首筋にキスをし、彼の頬を撫でる。 もう一つの理由は、こうでもしないとチャーリーはマシューに甘える事が出来ないのだ。マシューはそれが最近になってやっとわかってきた。彼が自らマシューに縋ってくる時は「相当」である。もうおおよそ9年の付き合いになるが、チャーリーからマシューに甘えたり頼ったのはたったの2回だけだ。その2回も、かなり深刻な「甘え」だった。

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