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第6話-2

「うん、そうだな……」 「読めた?」 「ああ。それでどうするつもりだ、上官どの?」 「嫌な言い方。そうね。その資料にはまだ載っていないけど、それらしい変死体が今朝方発見されたの」 「……はぁ、なるほど」 「理解が早くて助かるわ。私たちの雇い主はご立腹なの。魔法使いは魔法を使えないのか、って」 「非魔法使いが経営する民間企業に就職したのは間違いだったかな……」 「私も薄々思い始めてることよ。羽振りは良いんだけどね」 クリスは肩をすくめ、じゃあ魔法を使ってパパッと片付けちゃいましょ、と冗談を言った。世間が思うほど、この世界の魔法は便利ではない。 クリスは地図を広げ、被害が出ている場所と時間を追加で書き込んだ。大きい画面で一目で確認できるのは紙の良いところね、とクリスは微笑んだ。 「ざっくり、AからEまで地域を区切ってみたわ。全部合わせて半径約3キロ圏内でこれだけの被害は酷いわね」 「死者が7……今朝方のを含めて暫定8名か。場所は……」 「”死者”が発見される場所は決まって被害者のアパートね。半数が死後3〜4日経ってから……家族や知り合いの通報で発覚してる。魔法使いが助け出せた被害者だと……」 「この青いシールはアレと出会った場所か?」 「一応ね。いずれも人通りの少ない路地裏ね」 路地裏、といっても範囲はバラバラだ。大通りのすぐ隣にあるような比較的メジャーな路地裏から、地図に乗らないような裏道までさまざま。 死者暫定8名、助け出された軽傷者はウェインやニコルを合わせて5名。ただ、ニコルの事を考えるとアレに襲われ、誰にも相談できていない被害者はもっといる事になる。 「呪術師を呼んで強い残留思念の計測とその行方を追ってもらう事は出来ないのか」 「呪術師が私たちみたいな武力が資本の魔法使いより引く手数多なのは知ってるでしょう。彼らは忙しいの。それに」 「それに」 「……その旨をお上に申請しても、通らなかったわ。お前らで何とかしろ、って」 マシューとクリスは思わず笑ってしまった。いよいよお上は2人をこの会社から追い出したいらしい。

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