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第6話-4
「ほとんど報告書に書いたとおりですけどね。担当エリアに対魔用の罠とセンサーを仕掛けて、それが作動したら直行。被害者を保護、病院へ移送、治療」
「罠とセンサーはどういう物だ?」
「見ます?こちらへ」
担当魔法使いは路地裏にマシューを誘導し、手に持った装置を数回カチカチ押した。すると薄暗い路地に数百本、黄色い線が浮かび上がった。壁から壁へ、ランダムに張り巡らされている。
「これがセンサーです。人や実体のある魔獣には反応しませんよ。これは呪いだったり、今回みたいな遠隔魔法をキャッチ出来るんです」
「便利だな」
「そりゃあ、最近まで携帯端末の使い方すら危うかった人からしたら驚きでしょう?」
「は?」
「ごめんなさい」
担当魔法使いはマシューから視線を外し、咳払いをした。
「このセンサーに何かが捕まれば罠が作動します。見て行かれますか?」
「見ることができるのか?」
「ええ。使役してる呪いをここに落とせば、どのようなものか分かりますよ」
「……呪いを使役、というのは?」
「ああ!僕、別任務で人を呪っている途中なんですよ!その人にかけた呪いの一部を今ここに召喚して、このセンサーに通せばどうなるか見られるんです」
「………………すまない。そっちの分野は明るくないんだが、"呪いの一部"で発動した罠の影響は、その呪われている人間にも及ぶのか?」
「当たり前じゃないですか!でも軽く血が出るくらいですよ!」
「ああ、いや、やめておこう」
「本当に良いんですか?どうせそいつ、明日あたりに呪いで天に召されるから今多少怪我しても」
「やめておこう!別にやらなくて良いから!」
マシューは頭を左右に大きく振った。
この担当魔法使いやクリス、マシューもだが、魔法使いは倫理観が欠如していたり、人の気持ちを慮れなかったり、感情の起伏がかなり激しかったりと極端な輩がかなり多い。非魔法使いの言葉で「サイコパス」というんだったかな、とマシューはため息をついた。
「その、呪いの話、チャーリーにはしないでくれよ、頼むから」
「そうなんですか?怖がり屋さん?」
「ああ、かなりの怖がり屋さんなんだ」
かわいいですね〜と担当魔法使いは死んだ目のまま笑いこけた。おそらくこの担当魔法使いもなぜ自分が笑っているのか分かっていないし、マシューも理解できなかった。こういった一見不気味なやり取りは魔法界ではよく見かける光景だ。非魔法使いと魔法使いの仲が良好ではない理由の一端は、おそらくこれだとマシューは思った。
「……それで、今までどれくらい引っかかったんだ。この罠にアレは」
「この3週間で6回ですね。罠が発動した後に切り刻まれたアレの残滓を回収するのですが、全て黒い影のようなものでした」
「その証拠はこちらに送ってくれていたか?」
「いやぁ無理ですねぇ。その残滓も10分くらいで消滅するので」
「そうか……あと、気になることはないか?」
「気になること?そうですね」
担当魔法使いは顎に手を当て考えると「1つあります」とマシューの目を見た。
「罠が作動した時、アレが切り刻まれている間、うるさい子供の叫び声がするんですよね」
マシューは無意識に眉間に皺を寄せた。
「子供の叫び声……?」
「ええ。僕が聞けたのは近くにいた時たまたまなんですけどね。本当に金切り声に近かったですよ」
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