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第7話-1

7-1 アレに反応したのは玄関扉を開けたウェインではなく、チャーリーの方だった。扉を半分開けたあたりで、チャーリーは叫んだ。 「ウェインさん!床を踏んで!!音を立てて!強く!」 「!」 ダンッ!! ウェインは言われたまま、反射的に玄関の床を力強く踏みつけた。ウェインの足に絡みつこうとしていたアレは素早く避け、音に驚いたのか彼から距離を取ろうと「悲鳴を上げながら」飛び跳ねた。 ウェインの足の裏には、アレを確かに踏みつけた感覚があった。感触は軽く、深めの水たまりを踏みつけたようだった。 「ウェインさん、もっと踏みつけて!何回も!!」 ハッとしてアレがどこにいるのかも把握しないまま何度も床を踏みつけた。黒い影が足元を行ったり来たりしているのが見えた。たまに足に当たると、アレはキーキーと声を上げながらウェインに向かってこようとした。 そこでようやく周章しているウェインを後ろに押しやり、チャーリーが刃物を地面のアレめがけて突き刺した。鋭い一撃だったが、アレは間一髪のところで刃物を避けた。 「ああくそ!」 全力で刃物を振り下ろしたせいか先端は欠けどこかへ飛んでいき、残りは木製の床に突き刺さった。チャーリーは刃物を抜こうと力んだがなかなか抜けない。アレも、刃物を向けられ激昂したのか、標的をウェインからチャーリーに変えた。 チャーリーは左手は床につき、右手で刃物を引っ張る。刃物が抜けるまであと一歩……のところで左手がアレに捕まってしまった。指の間から手首までぬるぬると這い上がってくる。彼は全身の鳥肌が立つのを感じた。そして、確かな恐怖感。 思わず力が緩みそうになったが、気を持ち直して刃物を床から 抜いた。 幸い、アレはまだチャーリーの中には入ってきていない。人間でも無い、魔法使いでもない体を不審に思っているのだろうか。 チャーリーは何とか自分からアレを引き剥がしたくてたまらなかったが、実体はあるものの遠心力で振り払えるとも思えなかった。 ぐ、と右手の刃物で目標を定める。 チャーリーは何の迷いもなく、刃物をアレに──左手ごと突き刺した。

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