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第7話-4
「なるほど。それでこの惨状なのか」
ウェインはマシューの機嫌が悪いことをすぐに察した。冷静を装ってはいるが声のトーンが明らかに低い。サングラスの奥の瞳も鋭く、少しでも失言をすると射抜かれてしまいそうな威圧感がある。
「あの、チャーリーはそこで……」
「……」
チャーリーはマシューが来ていることに気づかず、床に伏せって心地良さそうに眠っている。
眠る彼のそばにしゃがみ込み、マシューは背中を優しく叩いた。
「チャーリー、起きろ。何があったか説明してくれ」
「うう……マシュー……?」
チャーリーは大きいあくびをしてから、ゆっくり体を起こした。アレ、捕まえたんですよ。そう寝ぼけ眼で伝え、透明の箱をマシューの前に持ってきた。箱の中には、逃げようと壁にぶつかったりもがくアレが確かにいた。
「捕まえたのはわかった。鑑識に回すから、何があったか話してくれ」
「ウェインさんが玄関を開けたら、アレが飛び込んできたんです。なので、捕まえました」
マシューは立ち上がり、部屋の中を観察した。
床には血痕が付着し先端が欠けている刃物、すぐ横に血まみれのタオル、床にも血が垂れている。誰かが……確実にチャーリーだろうが、床に向けて刃物を突き刺したのか木製の床には切り込みのような跡があり、そこも黒く湿っている。
天井には欠けた刃物の先端が突き刺さっていた。
寝ぼけ眼のチャーリー、動揺しているウェイン。
それ以外には特に荒れた形跡は無い。
マシューはチャーリーを見た。彼はマシューと目が合うとニコニコしていた。
「ちょっと、外出ろ。話がある」
「ええ、何ですか」
マシューがチャーリーの腕を掴んで立ち上がらせると、外に出て扉を閉めた。
2人は向かい合うと、マシューはおもむろに口を開いた。
「どこを怪我した」
「はっ?ああ、左手ですけどすぐ治りましたよ」
「痕は残るだろ。見せろ」
マシューはチャーリーの左手を取ると、黙って観察した。
一見、修復出来ているように見えるが、手の甲と手のひらを近くで見ると凹凸が出来てしまっている。ここまで修復するのにも相当な魔力を使っただろうに。
傷痕を数回なぞり、マシューは悲しくなってしまった。今回で一体、何回目なんだ──彼が魔法絡みで血を流すのは。
「チャーリー」
「はい」
「他の方法は無かったのか……」
「あったかもしれませんが、俺には思いつきませんでした」
チャーリーは依然として笑顔のままだ。いつもこうだ。重傷を負っても病床で微笑みを浮かべているのがこの男だ。
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