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第7話-7
この2日間の出来事を全て無かったことにしたい。リセットするつもりで長めにシャワーを浴び、外に出た。
「うそだろ」
なんと、チャーリーはすでに眠っていた。食べかけのお菓子を机に放り出し、ソファの上で丸くなって寝息を立てていた。早すぎる。いくら念入りに体を洗ったといっても、ほんの10分程度だぞ。
靴すら脱いでいないし、シャツのボタンは一番上までかけたまま。その上ジーパンで寝ると二重に苦しいだろうに。
「おおい、おおい、起きろ」
「やだ……」
肩を揺らすと素早く叩かれた。まるでハエか蚊の扱いである。もごもご何かを言っていたが、すぐに再び寝息を立て始めた。
「やだじゃないよ全く……」
こいつは友達じゃない。手のかかる年の離れた弟だ。お前は今日からおれの弟だ!…………はぁ。
今日だけで何度ため息をついたか分からない。勝手に泊まりにきたのはこいつなんだから、放っておけば良い。勝手に寝て、勝手に帰るだろう。
残念なことに、ウェインは世話焼きだった。口は悪いが、こういった性質 の男を放っておけなかった。
ソファを汚されてはたまらないので、高そうなスニーカーを脱がし、シャツのボタンを袖の分と上2つだけ外した。これで呼吸はしやすいだろう。
「……」
ボタンを外したことで、チャーリーがなぜ夏場にも関わらず厚着をしているのかが何となく分かった。
タトゥーだ。鎖骨あたりから、おそらく手首近くまでタトゥーが入っている。幾何学模様で、ブルーのタトゥーが。
意外な一面だ、とウェインは驚いた。ピアスも空けていないような男が、タトゥーを入れているとは。
「はは、起きたら聞いてやろう」
背中にも入れているのだろうか。ウェインの好奇心が湧き上がってくる。チャーリーは深く眠ったまま、起きる気配はない。
チャーリーが仰向けから寝返りを打ったタイミングで、襟をぐっと後ろに引っ張り、覗いてみた。タトゥーは入っていた。前面と似たような幾何学模様のタトゥーだった。
だがタトゥー以外に、よく分からない何かが背中に引っ付いていた。引っ付いている、という表現が適切なのかウェインには判断できなかった。
巨大な、青い血管のようなものが、背骨に沿って張り付いていた。
ウェインはタトゥーも含め、何も見なかったことにした。
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