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第9話-3
焼いたベーグルの間にハムやら野菜やらを詰めてリビングに行くと、既にマシューが身だしなみを整えてソファでリラックスしていた。
「早いですね。はい、ご飯です」
「ああ。お腹減ってるから」
「それで、アレの調査はいかがです?何かわかりましたか?」
「お前が提供してくれた物を鑑識に回したんだ。実態は無かったよ」
「え?でも俺掴めましたよ?」
「だから不思議なんだ。おれも触れることはできたから。おれたちは空気を掴んでいた、ということになる」
チャーリーは釈然としないようだったが話を続けた。元より、この魔法界では超常現象のような事件が山ほど発生する。だから魔法なのだ。チャーリーは7年この世界にいるが、未だ魔法が何たるかをちゃんと理解していない。
「アレはバラされながら2日ほどで消滅したらしい。呪いを専門にやってる部署にアレを回したら、大元が人じゃ無いかもしれないと返答された」
人じゃ無い?とチャーリーは首を傾げた。本当に首を傾げていたので、可愛いなぁ、などと思いつつ説明を続ける。
「アレを操っている本体は人でも魔法使いでも無い、って事だよ」
「ええっ、怖い」
ベーグルをひと口齧る。うん、美味しい。ちゃんとしたご飯が身に染みる……。この1週間、添加物が大量に入った味が濃すぎる食品ばかり摂っていたためマシューは少し感動していた。チャーリーが天才のシェフに見えてきた。
「美味しいなぁ、これ」
「マシュー、そんな事より続きを」
「ああうん。人や魔法使いならアレみたいなのを使役していたら足がつくんだ。だけど、今回はまるで分からない。だから、人じゃ無い何かがアレを使役してると仮定した」
マシューはベーグルを3口ほどで食べ切った。チャーリーは自分のベーグルをマシューに渡した。とてつもなくお腹が減っていたため、お礼を言って遠慮なく受け取った。
チャーリーのベーグルも食べ終えてから、マシューはようやく口を開いた。
「人じゃ無い、となってくると捜査が何倍も面倒になるんだ」
「その、人じゃ無い……というのは?まさか妖精とか言い出すんじゃ無いですよね」
「多分その類」
「俺、昔妖精や妖怪は存在しないって教えられたんですけど……」
「ああ、存在しないよ。ただ……」
「なんです、もったいぶらないでください」
「人工的に、と考えると話が変わってくる」
「……」
空気がぐんと重くなった。明らかにチャーリーの表情が険しくなり、マシューはもうこれ以上何も言いたくないし、彼をこの件に巻き込みたくなかったがそうはいかないだろう事は想像に難く無かった。
「……まだ、仮定だよ。コーヒーはあるか?」
チャーリーは黙ってキッチンに行き、3分ほどで2人分のコーヒーを淹れて戻ってきた。無言でマシューにコーヒーを渡し、自らも飲んだ。
「ありがとう。とにかく、今日はもうこの話はお終いだ。今日と明日は休みをもらえたから、ゆっくりしようぜ、な?」
「ええ……」
「おれと一緒にいたくないか?そんな暗い顔しないでくれ」
「いいえ……。そうですね、うん。どこか出かけましょうか?冷蔵庫にもう何も無いんです」
口角を微かに上げ、コップのふちを指でなぞりながらチャーリーは提案した。マシューも頷き、外に出る用意をした。
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