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第9話-4

その後、チャーリーがどれだけ事件ことを尋ねても誤魔化されて終わった。彼は主人が信頼してくれていないと業を煮やし、不貞腐れてしまった。 「せっかく取れた休みなんだから、仕事のことは無しでいこう」 マシューは切り替えが上手い……と思う。昔から、仕事は仕事、私用は私用とはっきり割り切っているように見える。そこも彼の魅力の一つなのだが、今回は落ち着かない。 人で無い、人工的な 何か。 それを耳にした時、一瞬動けなくなった。もしかしたら、自分もアレのようになっていたかもしれないのだから。 「拗ねないでくれ。もう駄々をこねる年齢でも無いはずだ、チャーリー(ぼうや)」 出かける準備を終えたチャーリーが横柄にソファで足を組んでいると、マシューが彼の膝を叩いた。 「だって、アレはもしかしたら」 「分かってる。分かってるよ。だけどお前の過去とは何も関係は無い。アレが人工的な何かだとしても、お前と出所は違う」 「なぜ断言できるんです?」 「お前の出所は、おれの母とその部隊が殲滅した」 「……」 「誰1人、生きて帰さなかった。生き残りの子供はお前1人だ。そう聞いている」 あからさまに険しい表情になったチャーリーの隣に座り、優しく手を撫でて握る。マシューは彼の肩にもたれ掛かり、大丈夫だ、そう囁いた。彼の囁き声は時々、子守唄のように聴こえる。 「ねぇ、マシュー」 「ん」 「俺たちって恋人同士なんですか」 「そうだと思ってたけど、違うのか?」 「いえ……。どっちなのかなって。恋人って何するもんなんですかね」 「……セックス?」 「じゃあマシューには何人も恋人がいることになりますね」 「今はもういないって……。お前とするようになってから辞めたんだよ、他に相手作るのは」 「どうだか」 チャーリーはそこで頬をぐりぐりと拳で押され「お前、ちょっと攻撃的だぞ。落ち着け」と諭されてしまった。いったん素直に謝ったが、心のモヤモヤは取れない。それを感じ取ったのか、マシューは話を変えた。 「ほら、そろそろ出かけようか?最近あまり出かけてなかっただろ?」 「……やっぱり、家でゆっくり、しませんか」 「おれはそれでも。映画でも見るか?」 「めちゃくちゃな映画が見たいです。破壊するやつ」 「なんだよ、それ」 おでかけを取りやめてテレビでヒーロー映画を見ながら、2人はお菓子を食べたり、体に触れ合ったりしながら過ごした。いつの間にかチャーリーの憂鬱な気分はどこかに行ってしまったようだった。 夕方近くになると、マシューが夕飯を買いに行くというのでついていくことにした。外に出ても、昼夜問わず人っこ1人いない。チャーリーはこの人間界をミラーリングしたような異質な空間にいつまで経っても慣れることが出来ない。外に出たら人が行き交っている状態こそ正常だと確信を持って言える。マシューは人がいようがいまいがどうでもいいらしいが。 「マシュー」 「怖いのか」 「ええ」 「手を……。今日は構ってほしい日なんだな」 マシューに手を引かれ、ワープ地点まで向かうとすぐさま人間界に飛んだ。日が落ちて仕事終わりの人々が行き交い、パブも賑わっている。やはりこちらの方が安心する。 「俺、やっぱり賑やかな方が好きです」 「そうか。なら夜遅くまでこちらに居よう。明日も休みだからな」 チャーリーは嬉しくなって彼を抱きしめたくなったが、人前なので我慢した。繋いでいた手を解き、店を探す。

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