58 / 66

第9話-6

「あの子……?」 『わたくしたちに1番近い存在。純粋で、優しくて、賢い子。わたくしはあの子を選んだのです』 「同族?それが誰かは知らないが、あんたみたいな影にされちゃ、可哀想だがな」 『影になんてしませんわ。わたくしたちは人々にお言葉を届ける存在なのです。あの子も、きっと美しくなります』 クククク、アレは木琴を叩いたように笑った。それからチャーリーの方を見て 『あなた、魔法使いだったのですね。脳みそをみた限り、人間かと思いました……』 チャーリーはもう怖くて泣く寸前だったが、何とか耐えて反論した。 「残念ながら、この方の付き人なんですよ」 『ええ、知っていますよ。……悲しかったでしょう』 「は?」 『幼い頃に虐げられ、その上利用されるのは……』 「あ……」 なぜそれを? その瞬間、影が爆発した。マシューが魔法を放ったのだ。 「ちなみに、影は痛みを感じるのか?」 影からは甲高い叫び声が聞こえた。チャーリーは唖然としていたが、マシューは第2波を撃ち込もうと力を溜めた。 アレは絶叫しながら影を撒き散らした。影の飛沫のようなものが地面に染みつき、すぐに蒸発するのが見える。マシューは火薬の量を加減したらしく、アレは半分くらいの大きさになった。 「痛いか?なぁ、どれくらいやれば消えるんだ?試してもいいか?」 『あなたは悪魔のような魔法使いですね』 「魔法使いなんて誰でもそんなもんだよ」 『ああ、とても痛い……。天罰が下りますよ……』 「残念ながら無神論者なんだ」 淡々と答えるマシューを見て、チャーリーは「怖くないのかな」と純粋な疑問を抱いた。 「痛いんだな。なぁ、ついでに本体まで案内してくれよ。お前のせいで7日まともに休めなかったんだ」 『知らせるわけにはいきません……。ああ、少し傷つきました……。あなたには天罰を下そうかと思います……』 「魔法使いの頭に入れると思うなよ」 そんなことしません、と影は(顔がないにもかかわらず)笑顔になったように見えた。さすがのマシューも気味が悪くなり、身構える。 『あなたにとっての天罰は……そうですね、お友達をしばらくいただいていきましょうか』 お友達? その単語を頭の中でなぞった瞬間だった。 隣で倒れる音がした。 普段なら誰が倒れようが構わない。マシューは魔法使いで、その典型のような性格だった。他人に興味を示さない。だが、その時隣にいるのは彼が執着してやまない"人間"だったから、目線を向けざるを得なかった。 チャーリーは急に魂が抜けたかのように地面に伏していた。 マシューは彼を一瞥し、すぐ影に視線を戻した。 その一瞬のうちに、影は姿を消していた。

ともだちにシェアしよう!