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第10話-3
仰向けですやすやと眠っているチャーリーの脈と熱を測り、正常であることを確認する。それから外傷の確認。"連れていかれた"時に出来た擦り傷以外はこれといって目立った怪我は無かった。チャーリーを仰向けから横向けに倒し、服を軽く捲り上げた。念のため彼の魔力の道も異常がないか見ることにしたのだ。
「いつ見ても禍々しいな……」
カウンセラーとして、そして友達として付き合いが長いリダクナですら彼の歪に盛り上がった魔力の道を見るたびに怯んでしまう。通常魔法の道は体内に存在する物だが、彼のそれは青い樹木が首の付け根から臀部にかけて皮膚にくっついている様に見えた。その樹木に合わせる様に、幾何学模様のタトゥーが両手の甲まで伸びている。このタトゥーは通常より魔力を多く蓄えておける代物だった。……数年前、チャーリーがこれを勝手に入れてきた時はマシューもリダクナも鬼の形相で怒った。
「問題なし、と……」
チャーリーの服を近くにいた看護師と協力して病衣に着替えさせた。
「あまり心配させないでくれよ」
君がこうなるとマシューの八つ当たりが飛んでくるんだから。
リダクナもこの事件の調査の一部を任されているため、おおよその内容は理解している。だが、マシューとクリスティーナは肝心な所は教えてくれない……機密事項なのかもしれないが。
人間界で魔法使いが絡む事件は、危険が伴う可能性がかなり高い。とりわけ、あの2人が昼夜問わず駆り出されるような事件は。今回も例に漏れず危険な事件だった。……とっとと解決してくれることを願うばかりだ。
「ま、今回も何とかなるだろ」
さて、仕事に戻るか。リダクナは固まった体を伸ばすと部屋を出た。
マシューは未だ混乱していた。なぜこんな事に。やはり彼を事件にかかわらせるべきじゃなかったのだ。
「別にいいじゃない。あの子が勝手に首を突っ込んできたんでしょ?自業自得だわ」
隣で美女が悪魔のように微笑んでいる。
「それに、眠ってる可愛い彼を長く見ていられてラッキーじゃない」
「お前、それ以上言うなよ」
「あら、良い面を洗い出してあげたのに」
この女とはとにかく反りが合わない。仕事だから仕方なく、かつチャーリーとこの女は仲が良いから仕方なく、仕方なくそれなりにやっているだけだ。このクリスという魔女は優秀であることは間違いないが、それと人柄とは全く関係がない!
「イライラしていても素敵ね」
「うるさいなぁ。仕事だ、仕事!」
人の脳を食う影、天使の幻覚、福音、食事、天罰……。
アレの正体は一体なんなのだろうか。敬虔な何かしらの信者だとでも言うのだろうか。
「そういえば、他の社員からこんな話を聞いたわ」
「世間話ならもうよしてくれ」
「違うわよ。丁度一年前、宗教団体の施設で変死事件が起きたの知ってる?」
「……そんな事件あったのか?」
「そこに天使がいたんですって」
マシューはますます頭が痛くなってきた。
「何なんだ、その、天使って……」
「神の伝言を頼まれたり人を見守ったりする羽根の生えた……」
「そうじゃなくて……。存在しないだろう、実際には」
「そんな事言っちゃダメよ」
「その、宗教団体と今回の事件とは何の関係が?」
「捜査も行き詰まってるから、気分転換に行ってみない?」
「どこに」
「その宗教団体"跡地"に」
クリスは依然微笑みを湛えたまま言った。
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