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第10話-4

その宗教団体跡地は、市街地から車で1時間ほどの所に存在した。 「確かに、人を閉じ込めて洗脳するにはいい場所かもね」 施設は人里離れた森の中にあった。病院のような、中々に陰気な建物は3階建て。 「建物内への立ち入りの許可は」 「ちゃんと取ってあるわ。鍵も貰ってある」 クリスは自慢の黒髪を揺らしながら鍵を取り出した。相変わらず用意周到だ。彼女はとっとと入り口を解錠してしまうと、マシューに「入って」と視線を送った。自分が先に入ればいいのに。 マシューは入り口から中を覗き込み、危険がないか確認した後足を踏み入れた。薄暗い中に人の気配はなく、中は寂れて埃っぽい。クリスも続いて中に入ると、せっかくだからじっくり見学していきましょうか、と微笑んだ。 「天使、天使ねぇ」 歌を口ずさむようにクリスは言った。 「あなた、そういうの信じる?」 「信じると思うか?」 「信じないでしょうね。あなたのその性格じゃあ」 「お前は信じているのか」 「信じてると思う?」 2人は思わず笑ってしまった。徹底した無神論者でオカルト否定派の2人が捜査に行き詰まり、特権を行使して肝試しに来ているんだから。 「あの子は信じてるの?」 「チャーリーか?あいつは昔からおとぎ話だとか神話だとかが好きだよ」 「連れてこれたら良かったのに」 「はは、そうかもな。いい具合にビビってくれそうだ」 「可愛いものね、あの子」 1階はどこの部屋も小綺麗だった。内装を見るに、どの部屋も応接室やいわゆる礼拝室などに使われていたらしい。 「うん……」 2階に続く階段に差し掛かった時、クリスが立ち止まった。下にも続く階段があったのだ。異様な空気だ、と2人は顔を見合わせた。 「上から行く?それとも下から攻める?」 「……上から行こう。チャーリーならそう言う」 「あの子ならそもそも地下には行かないでしょ。怖がりなんだから」 やっと肝試しらしくなってきたわね。クリスはご機嫌そうに階段を上った。 2階は窓から日が差し込み、1階より明るかった。部屋の配置や構造は1階とそう変わらないらしい。ただ、使用目的は違うようだった。 「部屋かしら、このエリアは」 「事件が起きてからそのままになってるのか?……酷いな」 おそらく信者が寝泊まりしていたであろう部屋は、全体的に茶色いシミが残っていた。一通りクリーニングはされているようだが、それでも拭いきれないシミがべったりと。 「事件の内容は聞いてるのか」 「一通りはね。謎が多い事件なんですって。経営者を含む信者全員がこの建物内で変死していたらしいわ」 「変死か。目撃者はいないのか」 「いないのよね。この建物にいた人間は、全員こうなっちゃったみたい」 「ふむ……」 「ねぇ、魔法が絡んでると思わない?」 「何でもかんでも魔法と関連付けるのは良いとは思えないな」 「本当?」 「……だが、これは確かに異常だ。心中するにしても死に方に無理がある」 これほど派手に血を撒き散らしながら全員綺麗に心中など出来るものか。クリス曰く、死亡者全員が同時期に全く同じ死に方をしている。

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