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第10話-5

「こっちの世界でもたまにあるじゃない、こういうの」 「たまにでもあってたまるか……」 「これより小規模のものなら」 「……それは、あるな」 なんならこちらの世界より猟奇的な事件はかなり多い。 その度に捜査に駆り出されるから迷惑なのだが。 「信者と、主催者は分かってるだけで何人いるんだ」 「あ〜聞いてなかったわ。だけど部屋数を見る限り……30人はくだらないんじゃない?」 「2人か、3人一部屋か。狭いな」 2階はどの部屋も刑務所ようだった。無骨な二段ベットと机と椅子。3人部屋らしき室内には床に布が敷いてあった。洗脳されていたとはいえ、よくこんな部屋で過ごせたものだ。個人のものを置けるスペースなんてほぼ無いじゃないか。 2階の部屋を見ていくにつれ、それぞれの部屋の傾向も分かってきた。捜査に役立ちそうな団体の証拠品を除き、ほとんどの物品が事件が起こった時のまま放置されていた。毛布、スリッパ、教典らしき本、……子供が読むような絵本や、ボールなどのおもちゃ類。 「子供もいたのか?」 「そりゃ、子連れもいたでしょうね」 全員、犠牲になったのか。この異様な現象の被害者に。 「珍しい。狼狽えてる?」 「まさか。ますますあいつが居なくてよかったと思っただけだ。勝手に感情移入して引きずるから、フォローが大変だろう」 「まんざらでもないくせに〜」 クリスをジロリと見ると、彼女はニヤニヤと口角を歪めていた。マシューはこの女とはつくづく馬が合わないと感じる。あいつにちょっかいを出すのはもちろん、おれに対しておちょくるような発言を頻繁に繰り出すためムカムカしてしまう。 2人はちょっとした小競り合いを起こしつつ3階に上がった。3階も2階と似たり寄ったりだったが、独房のような部屋がいくつかあった。へぇ、こういうのって地下にありそうなのに。クリスが独房の扉を開け、中をまじまじと観察した。 「中には何もないわね。扉には一切光が入らないようにしてあるわ。怖いわね〜」 「本当にそう思ってるか?」 「ええ、おそらくね」 おそらくね。ああそうだろうな。マシューは肩をすくめると部屋を一つ一つ確認することにした。独房が3部屋、物置きがいくつか……マシューは足を止めた。 「この部屋、何だと思う」 「ん?ん〜広いわね。ノートや鉛筆がたくさん置いてある。全体的に小さいわ。机も椅子も」 まるで教室ね。クリスは物怖じせずその部屋に足を踏み入れたのでマシューも続いた。 事件当時、この部屋には誰も居なかったのか茶色いシミは確認できなかった。机の数は8つ。いくつか置かれた乱雑なノートを見てみると、単語や文章に年齢のばらつきが見られた。この建物内に居た子供を集めて、授業でもしていたのだろうか。それともただ都合よく閉じ込めていただけだろうか。 マシューがそのままノートをめくっていると、ふとあるページが目についた。 「……」 「上手ね。天使かしら」 天使。マシューもそう感じた。子供が描いたらしいイラストの天使は頭から足元まで白く、背からは羽が生えている。天使の近くに、ノートの持ち主らしき人物も描かれていた。おそらく女の子だろうか、髪の毛を2つにくくっている。 「なんだか…….あなたに似てるわね」 「何が」 「この天使が。色合いなんてそっくり」 「勘弁してくれ」 「この子にとって、この天使は憧れだったのかもね」 「イマジナリーフレンドかもしれない」 「実在はしないでしょ、天使なんだもの。それに、この天使みたいに真っ白な人間なんて……あなたは別として、なかなかいたもんじゃないし」 うん、とマシューは頷いたが何か引っかかった。 ノートのページを写真に収め、2人は教室を出た。

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