33 / 1012
何も分からない
祐羽が頷くと、部屋の中がざわめく。
「いや、私たちは無理矢理というか…。それぞれ理由があってここに居るんだよ」
「まぁ、騙されたり貢がされて借金よ…。相手が悪かったわ」
可愛い顔をした女が溜め息をつきながら、笑った。
今度は斜め向かいに座っている女が、足を組み直しながら妖艶に笑う。
「ここ、本番アリなんだよね…。本当はダメだけど、その分稼げるのよ」
『本番』の意味は分からない。
けれど、祐羽にもそれがいけない事だというのは分かる。
「でも、あんたみたいな男の子が来るのは初めて」
「いったい何したのよ?あんたも借金でもしたの?」
訊ねられて言葉に詰まる。
説明をするにも、難しい。
まさか携帯を落とした事から、こんな風俗へ売り払われる様な展開を話して誰が信じるだろうか。
「ってか、この子。これからの事、何にも分かってなさそう…」
隣の女が、そう言った時だった。
同時にドアが開かれて、先程の二人とは違う男が顔を出した。
「おい、美弥‼ご指名だ」
「はぁ~い」
呼ばれたのは隣に座っていた女だった。
美弥は立ち上がると長い髪をかきあげた。
「あ~誰だろ?エッチ上手いといいんだけどぉ」
そう言いながらスタイルの良い体をくねらせた。
言葉には、本心でない響きがあるように祐羽には思えた。
祐羽に美弥が視線を向ける。
「キミここに来たからには、もう逃げられないわよ。可哀想だけど、諦めて頑張ってね…」
美弥は、祐羽の青白くなった顔を見つめ優しく頭を撫でると部屋を出ていった。
ともだちにシェアしよう!