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指名

記憶を辿って、男を思い出す。 今まで会ったヤクザ関係者は、恰幅の良い中年の男や目つきが陰険な男。 見た目も一般の市民とはかけ離れていた。 それが、あの時自分が襲われている場所へと現れた男は、ヤクザ関係者とは思えない程の美貌を持っていた。 圧倒的な存在感。 初めて会ったその姿に、目が離せなかった。 「九条さん…」 思わず声に出していて、慌てて口元を押さえる。 幸にも周りの女には聞こえていない様だ。 すると、バタンッとドアが開いた。 「おいっ 葵‼ ご指名だ‼」 田部が室内を見回して、祐羽を見つけるとニヤリと笑った。 「おう。準備万端だなぁ」 いやらしく満足気に頷いた。 「さっ、お前の初めてを貰ってくれる一番目の客が来たぞ」 「い、嫌だ…‼」 後ずさる葵に一気に詰め寄ると、手首を掴み強引に引き摺って行く。 必死に抵抗する祐羽だが、あっという間に小部屋から廊下へと連れ出されてしまった。 先程まで祐羽に店の服を無理矢理着せたり、諦めろと言っていた女たちだったが、心中は反対の思いを抱いていた。 「…ごめんね」 「せめて優しいお客さんだといいね…」 女たちは痛ましげに見送っていたが、ドアの向こうの祐羽は気づくことは無かった。

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