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客
廊下へと連れ出された祐羽は、両足を突っ張ったものの無駄な抵抗に終わってしまった。
アンアンと聴こえる女の喘ぎ声の響く廊下を進むと、角に位置する部屋の前へとやって来た。
「離して‼ 離せ~っ‼」
手を解こうと細腕で格闘し始めると、田部が怖い顔で祐羽を引き寄せた。
「葵‼ お前、自分の立場が分かってるんだろうな⁉」
「‼」
少しドスを効かせた小さな声は、祐羽の脳を冷静にさせた。
抵抗したら、家族に酷い仕打ちが待ち受けている可能性が高い。
祐羽もこの状況から脱出するのは不可能だろう。
こんなことなら、何がなんでも書類にサインするべきではなかったし、ここへ連れて来られる途中に大声で抵抗していたら良かった。
後悔だけが募っていく。
「なぁに…。ほんの一時間我慢すればいいんだ」
そう言った後、トントンと田部がドアをノックすると、部屋の中から男の声が入室を促した。
キィッという安っぽい作りのドアが音を立てて、中へと開かれた。
「ほら、お客様がお待ちだ‼」
「あっ…‼」
ドンッと軽く小突かれ、部屋の中へと入る形になってしまう。
「お待たせ致しました。こちら、ご指名の葵です」
田部の目の前には、40後半から50代位だろうか。
眼鏡をかけた男がベッドの端へと腰を下ろしていた。
「葵は未経験なので、お手を煩わせるかもしれませんが可愛がってやって下さい」
田部が営業スマイルを貼り付けて頭を下げると、そのまま出ていってしまった。
「あ…」
この状況に戸惑う祐羽を男が、嬉しそうにニコニコと笑って見つめている。
それに気がついた祐羽は、体を見られまいと両腕を前へと回す。
おかしな話なのだが、男の自分の乳首を見られることに抵抗が沸き上がっていた。
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