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甘言
黙ったまま立ち尽くす祐羽に、男は笑いかける。
目尻の皺がクシャリと寄るので、とても優しく穏やかな表情になる。
「葵くんって言うんだね。そんなに緊張しなくても大丈夫だよ。安心して」
男は、オイデオイデと手招きをする。
「初めてって聞いたよ。全く経験ないの?」
祐羽が黙って固まっているのを見つめながら、男は質問を続ける。
「その様子だと、なんだか理由があるみたいだね…」
「‼」
自分が好んでこの仕事に着いたのではないと察してくれたらしい男に、祐羽は胸をつかれた。
男は薄い布から覗く裸体に目もくれずに、心配そうに訊ねてくる。
「大丈夫。無理矢理痛いことはしないから」
「あ…」
自分の気持ちに寄り添おうとしてくれる客の男に、祐羽は少し心を動かされていた。
人から悪意を受けることの少なかった祐羽は、そういう意味での危機管理能力が薄かった。
素直で純真といえば素敵なところなのだが、大人の汚れきった世界では、ただただ無知で幼い愚かな子どもでしかないのだ。
「僕はいつもここで、エッチなことはせずに女の子に会社での愚痴を聞いてもらってるんだ。今日もそのつもりで来たんだけど、男の子がひとり居るからおかしいな、と思ってさ」
同情する表情を祐羽に向けて、話を続ける。
「きっとワケありなんだろうって思って。僕でよければ話を聞くよ?」
「…‼」
祐羽は男の甘言に潤む目を向けた。
悲愴な少年に優しく微笑む男だが、しかしその目をよく見ると、悪巧みを含む光を宿していた。
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