56 / 1012

ドアの先に

九条は魅力的な男で、何度も危機を救って貰っていた。 しかし、自分が陥れられた裏の世界に、同じく身を置いている男でもある。 こうして自分を助け、今など風呂まで貸してくれた。 その優しさと同時に、敵対しているらしいヤクザや部下相手に、容赦ない暴力的な一面も見せられているのだ。 開けるか、開けないか。 「どうしよう…」 このまま帰ってしまおうか? 一瞬思い浮かんだ考えだが、フルフルと首を振った。 ダメだ。 いくら相手がヤクザという肩書きを持っていても、実際に自分を助けてくれた人間に対して、そんな失礼極まりないことは出来ない。 祐羽の生真面目な性格が、ヒョッコリと頭を出した。 そうなると、もう答えは出ている。 ガチャッ 祐羽は、ドアをそっと開けたのだった。

ともだちにシェアしよう!