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部屋にふたり
「あ…」
「…」
九条は祐羽が入ってきた方とは別にあるドア二つのうちのひとつへ寄り掛かる様にして立っていた。
いつから自分を見ていたのだろうか。
どうやら九条も風呂上がりの様で、同じくバスローブ姿だった。
いい男が着ると同じものとは思えないバスローブ姿に、祐羽は理不尽さを感じつつ、色気の滴るその九条の立ち姿に目を奪われていた。
九条は頭を軽くタオルで拭いながら、黙ってこちらを見ている。
「…」
「…」
暫くそのままで居ると、九条の視線が居たたまれなくなってきた。
まるで肉食獣に狙われた草食獣の様に、対峙する。
打開したいけれど、何を話せばいいのか分からず無言が続く。
すると、九条がふいに動いた。
長い足であっという間に目の前まで来ると、皮肉気に口元を緩めた。
「‼」
ドキッと緊張から、心臓が高鳴る。
九条の整った顔立ちを目の前にしてか、その色気に充てられてか。
高鳴った心臓は煩く鼓動を繰り返し、この緊張を悟られてしまったのではないかと、祐羽は顔を紅潮させた。
こんな顔を見られるわけにはいかない。
そう思った祐羽は、無意識に顔を俯けた。
視界に入った自分の手が、震えているのが分かる。
「そういう態度をとるオマエが悪い」
「えっ⁉」
どういう態度?と、首を傾げる間もほぼ無かった。
九条がそう呟くと、急に祐羽の視界が回転する。
気がつくと祐羽は九条の肩に担ぎ上げられていた。
「ちょっ、や、やだっ‼」
祐羽の抵抗など蟻が大声を出すようなものだった。
九条は大股で悠々と歩を進めると、隣のドアのノブに手を掛けたのだった。
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