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絵になる男
意を決して突入したリビングは、朝の光を受けて益々光輝いていた。
そんな中、高級そうなソファにゆったりと座り、新聞に目を通している男がひとり。
テーブルにはコーヒーカップが置いてあり、香ばしい匂いが部屋に充満している。
「…わぁ…」
祐羽は無意識に音を溢していた。
ただ座って新聞を読んでいるだけなら、自分の父親も毎日しているこどだが、九条はどうだろう。
何気ない光景でさえ、絵になる。
ヤクザで怖くて仕方ない男とは思えない。
どうしていいか分からず九条を見ていると、直ぐに新聞が折り畳まれた。
その仕草ひとつでドキッと心臓が鳴る。
九条は新聞をテーブルの隅に置くと、カップの載ったソーサーを持って立ち上がった。
それから祐羽の目の前を通りすぎる。
「…っ?」
それを目で追うと、ダイニングへ向かったのが分かった。
ダイニングテーブルへカップを置くと、キッチンへと入る。
冷蔵庫から瓶に入った林檎ジュースが出され、次に高級そうなグラスと白の綺麗な皿が出された。
林檎ジュースのラベルがポップで可愛くて、九条とは全くイメージが違う。
九条は林檎ジュースが好きなのだろうか?
なんだか可愛く思えて、自然と口元がニヨニヨしてしまう。
笑ってはダメだと分かっていても、ギャップが有りすぎるだろう。
そうして見ていると、今度はキッチンの調理台に置いてあった袋から次々とパンを取り出す。
惣菜系や菓子系と目にも楽しく美味しそうな物が、軽く十個はある。
九条はパン好きなのだろう。
なんて思っていたら、九条がこちらへやって来た。
通りすぎるかと思っていると、目の前で止まった。
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