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覆された朝の光景
眞山は驚いていた。
この世界に入った頃は驚くことは山ほどあり、それに慣れるまで時間も必要だった。
それでも自分の中で全て消化していき、受け入れる度量を身につけた今では、少々の事どころか大きな事でも平気でやってのける事が出来る。
それも九条の為を思えば、黒いと分かっていてもそれを丸ごと飲み込む事を厭わない。
そんな眞山は、相手に思いを悟られ不利にならないようにと、感情を圧し殺す術を持ち合わせていた。
とはいえ、九条ほど器用ではない。
敵対組織に相対した時とは違い、こうして外に居ない時にはある程度感情を表には出すが…。
それにしても驚いた。
本気で驚いた。
驚いたのには訳がある。
九条の右腕として側に使えてきた眞山は、ボスである彼の事はある程度分かっていた。
そのひとつに、家で料理は一切しないし、食べないのだ。
朝はコーヒーのみで出社して、昼食も夕食も一流店で済ませる。
それから帰宅。
家にはコーヒー、酒類、それ以外だとちょっとしたつまみになる物位しか置いていない。
あとはミネラルウォーターがあるくらいで冷蔵庫は、ほぼ空っぽだった。
その辺の主婦や料理好きからすれば大喜びで使うだろう豪華なキッチンも、宝の持ち腐れ。
調理台の上には、本当に何も置かれていない。
それが十何年共に過ごしてきて、一度たりともぶれた事のない決定された朝の光景だった。
それが、今朝。
まさか覆されていたとは誰が想像しただろうか。
ダイニングテーブルの上には、この家に不釣り合いな物が置かれていた。
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