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そこに居る少年
子ども向けのアニメ風に描かれた林檎ジュースの瓶。
それから並べられた沢山のパン。
この部屋には絶対に置かれていた記憶の無い物が、テーブルに並べられ、その場所に少年がちんまりと座りこちらを不安そうに見つめていた。
月ヶ瀬祐羽。
先日から縁があり、昨夜も助け出した彼を自宅へと連れ帰ると言ったのは九条だった。
九条が他人を。
しかも最近出会ったばかりの相手。
それも大人の女でも少女でもなく少年を。
どれ程に度肝を抜かれたことか。
九条が自分と家族以外を家に入れたという記憶は、一切無い。
そんな九条が祐羽を突然家に連れて帰ると言うので、調べさせておいた結果を慌てて確認してみた。
祐羽は見事なまでに真っ白な少年で、何の問題もなかった。
その点、不安は無かった。
なので特別心配はしなかった。
九条ほどの男が、祐羽に危害を加えられるはずもない。
そして家に連れて帰れば、必然的に夜の相手をさせるだろうとは分かっていた。
それこそ引く手数多の九条が、何故この特別美少年とは思えない子どもを相手にしたのかは分からない。
それよりも、だ。
そんな少年ひとりに、九条が起こした行動に衝撃が大きすぎる。
テーブルに置いてある飲食物は、どう考えても彼の為にあるものだ。
いつも九条の為の買い出しを部下に指示する自分が、今朝は何もしていない。
ということは…。
九条自身がジュースとパンを買いに朝から出掛けたという事になる。
九条が他人の為に、自ら動いた姿を見たことがない。
それも夜の相手をさせた一般人の少年の為に動いた事実は、眞山に大きな衝撃を改めて与えた。
一体どんな顔をして買いに出たのだろうか…。
「…」
眞山は、黙ったまま視線を戻した。
そこには、朝食を食べ終わって居心地悪そうにソワソワしている祐羽の姿があった。
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