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自分の為の服
「買ってきたから、服。着替えたら家まで送る」
中瀬がコソッと耳打ちしてくる。
どうやら自分の為に買って来てくれたらしい。
「えっ、で、でもっ。これ、新し…」
「社長からだから。お前は気にしなくてもいいんだ。とにかく早く着替えろ」
祐羽が戸惑っていると、先程よりまた声を潜めつつ中瀬がそんな事を言う。
買ってきたのは中瀬でも、買うように言ったのは九条らしい。
わざわざ自分の為に用意してくれたなんて、本当に優しい人なんだと思ってしまう。
「ほら、急げ」
「えっ、あ、…っ!」
急かされるままに、祐羽は立ち上がった。
立ち上がったはいいが、そこで痛みを感じる。
「隣の部屋で着替えろ。荷物もそこだ」
「はい。分かりました」
九条の言葉に返事をしたのは中瀬だ。
今の祐羽には、九条の言葉に返事をする余裕もない。
痛みを最小限に留めようと、チマチマと移動を開始した。
この歩き方なら痛みも少なく、酷く感じない。
祐羽は慎重に、けれど早く着替えなければと真剣に移動をしていた。
さっきよりもコツを掴んだのか、少し早く歩けている。
よし!ひとりで歩くのも大丈夫だ。
祐羽は内心ホッとしながら、隣の部屋を目指した。
が、しかし。
その後ろ姿に、中瀬も眞山も呆気に取られていた。
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