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泣かない
そのお陰か、緊張してカチカチだった体から力がいい意味で抜けていく。
九条に抱かれてから、平気だと思わせようとした心は、やはりずっと無理をしていたんだと気がついた。
知らず知らず体に力が入っていたのは、昨日今日会ったばかりの人間に囲まれて、本当に家に帰してもらえるのかという不安。
そして何よりも、自分が大人の男に無理矢理体を奪われた事だ。
その事実を改めて実感してきて、ふいに涙が溜まってきた。
けれど、落ちそうになる涙を止めようと、顔を持ち上げる。
泣くな、今は。
祐羽は歯を食い縛って、涙が流れるのを耐えた。
今は泣かない。
この人達の前では泣かない。
早く帰りたい。
心から休める家に。
両親の顔を見て、安心したかった。
そしてこの二日間の出来事は忘れよう。
心と体がザワザワするのを誤魔化して、祐羽は目を閉じて息を吐いた。
そんな祐羽に気づいているのか、いないのか。
黙っていた中瀬が再び口を開いた。
「あのさ~お前の家に着いたら、俺も親に挨拶するからな~」
「えっ?」
その言葉に祐羽は勢いよく中瀬の方を向いた。
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