113 / 1012

そうしているうちに、見慣れた景色が流れてくる。 知っている通りまで来ると、さすがにホッとした。 もう直ぐ家だと祐羽は、心がはやるのを止められないでソワソワと車外を眺めた。 そんな家まであと数分となったところで、中瀬が思い出したと口を開いた。 「あ~言うの忘れてたぁ!俺のオヤジ役で、今運転してる堺さんが一緒に挨拶するから~」 そう言われて、祐羽は運転席を見た。 ルームミラー越しに顔が見える。 ちょっと雰囲気は怖そうだが、普通のおじさんと言われればそうだろう。 「親が出てくる事で、それが本当だったと認識させられる。あと、謝罪も受け入れられ易くなるからなぁ~」 その理由に祐羽は納得するものの親に嘘をつく後ろめたさも感じていた。 けれど、これは大切な嘘だ。 自分だけでなく、大好きなふたりを守るためにも…。 「着いたぞ」 運転手の堺が声を掛ける。 真正面を避けて、家がなんとか見える位置だ。 ここからなら、助手席に座っている男は見えないだろう。 「さぁ~て、ご挨拶ご挨拶」 語尾に音符が踊ってそうな口調で言うと、中瀬が車から降りた。

ともだちにシェアしよう!