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語れない真実
すると亮介が祐羽から体を離して、中瀬に向き直った。
「あ、こっちは父です」
「はじめまして。この度は大切な息子さんに、本当に申し訳ありませんでした」
中瀬が紹介すると、堺がすかさず頭を下げた。
「ああっ、頭を上げてください!!こちらこそ、お世話になりまして…」
亮介が頭を上げるように促すと、堺はゆっくりと体を元に戻した。
「家内がジュースとお酒を間違えて出してしまって、本当に申し訳ありませんでした」
既に連絡済みということで、亮介も理解しており手を振って堺に気にしないように伝える。
「いえ、最近の物は果物のイラスト入ってたりしますしねぇ。アルコール中毒で倒れたとかじゃないんで、大丈夫です」
亮介が笑いながら言うと、香織も「そうですよ。却ってお世話をかけてしまって」と言った。
いや。
お世話をかけては全くないよ、お母さん!
むしろ迷惑を掛けられて、処女も奪われた祐羽は被害者だ。
お酒で酔っぱらって一晩泊まったこの物語が事実なら、それほど幸せな事はないだろう。
祐羽は真実の語れないモヤモヤ感に、眉を寄せた。
「ゆうちゃん服はどうしたの?」
「酔った表紙に溢しれて汚れたみたいでしたので。息子の為に妻が買ったモノですが、コイツすーぐ大きくなって一度も着れないままでして」
突然訊かれてドキッとしたものの堺がさも本当の様にエピソードを披露する。
「勿体ないので、このままお詫びも込めてお譲りしたいと思いますので」
その言葉に両親が恐縮していた。
こうして仮の中瀬一家は確実に好い人認定がされていくのを祐羽は感じ取っていた。
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