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文字通りの男
「さっきも言っただろう?逆らうなっつーか、あの人には誰も逆らえねぇんだよ。それこそ日本の国家権力でもな!!」
「え…?」
どういうことだろうか…まさか、そんな…と祐羽が混乱に表情を曇らせる。
「文字通りなの~お偉いさんにも秘密のひとつやふたつはあるでしょうよ?まぁ、全員とは言わなくとも…」
「おい。中瀬」
それまで黙っていた運転席の近藤が短く名前を呼ぶと、中瀬が(しまった)と苦笑いをする。
「ヤベッ。話しすぎた~まぁ事実だし、いっか~」
反省の様子も見せずテヘッと軽い感じにニャハハッと笑う。
その間にも祐羽は、あまりの話の内容に益々恐ろしさを募らせていた。
自分を九条の部屋まで行かせる為の嘘だと思うが、それを嘘だと言い切れないものがある。
絶対的な権力者しか住めないこの地区に、若くして居を構える男。
あの圧倒的な逆らえないオーラ。
まさかと思っていると、コンコンと窓を叩く音がする。
ハッとして視線を投げると、そこには堺が立っていた。
「あ、迎え来た」
「のんびり話なんてしてるからだバカ」
運転席の加藤から軽く叱責され中瀬が唇を尖らせた。
中瀬が先に降りるのを見ていると、いつの間にか反対側に回っていた堺が、祐羽の座っている座席側のドアを開けた。
「降りろ。社長がお待ちだ」
そう言われて「はい分かりました」とすんなり降りる決意は出来ていない。
戸惑う祐羽は堺の太い手に掴まれると、意図も容易く外へと出されてしまった。
こうして改めて見上げると、堺は怖い顔をしている。
一度会っただけの録に会話もしてない相手、それもヤクザと分かっているのに緊張するなというのが無理だ。
「お~い月ヶ瀬くん。早くしないと時間オーバーヤバい!」
それとは対照的に、まるで何年も先輩後輩をしていたような口振りで呼ばれて、祐羽はげんなりとした。
こちらはヤクザには思えない分助かるが、実際はヤクザなのだ。
そしてもうひとり…。
「月ヶ瀬くん、待っていましたよ。さぁ早くしてください。時間の無駄ですから」
駐車場から直通のエレベーターのあるホールに、眞山が直立不動で立っていた。
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