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下ろされた場所

眞山に早くしろと言われて慌てたのは中瀬だった。 その中瀬にせっつかれてエレベーターへ乗り込むと、静かに祐羽とふたりを乗せた箱は上昇していく。 「まさか学校をサボって早退とは思いませんでしたよ、真面目な生徒だろう君は?」 いきなりそう問われて祐羽はビクリと肩を揺らした。 中瀬からの連絡を受けて会いたくないから仮病を使ったとは言えない。 「…ちょっと、体調が…」 「報告によると元気に歩いて帰っていたみたいですが?」 「…っ!」 中瀬がそう報告したのだと分かる。 見られていたならこれ以上の嘘はつけない。 祐羽は観念してそのまま黙りこんだ。 「あぁ、社長は仕事を全部切り上げて帰宅されたんだ。予定は全て狂ってる。その意味を考えて下さいよ、月ヶ瀬くん」 眞山の言葉の意味を理解出来ないままエレベーターは小さな音と共にフロアへ祐羽達を吐き出した。 そのまま背中を促され前に進まされそうになって、祐羽は最後の抵抗とばかりにその場に立ち止まる。 逆らうのは無駄な抵抗。 自分だけでなく家族にも危害が及ぶかもしれないと思うと、諦めの境地に入っている。 心で分かってはいても体は硬直して、素直に動こうとはしない。 この先にあるドアを開ければ、あの男・九条がいるのだ…。 「…あのっ…その…何で僕が?」 大きな疑問。 ずっと考えて来て、分からなくて放棄した疑問。 そんな祐羽に眞山は溜め息をついた。 「それはこっちのセリフですよ」 それだけ言うと、逞しい眞山に半ば強引に運ばれてしまう。 「あっ?!」 先に回った中瀬がドアを開けると、眞山がそのまま中に入る。 「えっ、ぁ…」 そして中瀬が祐羽の靴を脱がせる。 「失礼します。連れてきました」 「あぁ…ご苦労だったな」 廊下を進みドアを開けて下ろされた場所は、一度来たことのあるあのリビングで。 九条はあの日と同じソファで同じ様にタブレットを操作していた。

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