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白と黒の部屋で

「い、…たぃ…」 痛い。 けれど転倒による痛さよりも恥ずかしさが沸き上がる。 そしてそれよりも九条の反応が気になって、痛みを堪えて立ち上がった。 大きな音を立てて転けてしまって、九条が不快に思っていないだろうか? 煩くしてしまい機嫌を損ねられ、怒鳴られたり殴られたりはしないだろうか…そう思うとヨロヨロしつつもソファへと向かう。 怒鳴ったり殴られる事はなかったので、内心ホッとする。 歩きながらチラッと一瞬顔を見るが、見たのを後悔してしまった。 呆れている…。 九条の表情は対して変化はないのだが、どこか目が白けているのは決して祐羽の気のせいではない。 不機嫌ではないが心底呆れている様だ。 その無表情に近い顔で見られると居たたまれない。 とにかく黙って静かに向かいのソファに座った。 見ているだけでは分からなかったが、ソファはとても良い物の様で、祐羽の家に置いてある物とは全然違う。 体を程好く包み心地よい。 高級品に違いないと、遠慮がちに居ずまいを正した。 「…っ…」 「…」 祐羽は両手を膝の上に置いて、見るともなしに目の前のテーブルの上を見つめた。 九条はというと、黙って座っていたかと思うとタブレットをテーブルに置くと立ち上る。 「?」 何処へ行くのかと思い見ると、カップを片手にキッチンへと向かって行った。 静かな室内にカチャカチャと小さくカップの音が妙に響く。 どうやらコーヒーのお代わりの様だ。 九条がコーヒーを煎れている間に、祐羽はコソコソと室内を見回した。 九条は全体的にイメージ的にも正直、黒だ。 なのに家具や調度品は白なので、コントラストに目眩が起きそうになる。 そんな真っ白な壁に掛けられたシンプルな時計は、まだ午後二時を回ったばかりだった。 こんな時間に学校を結果さぼって、ヤクザと顔を合わせているという…現実的ではない。 不思議だ。 居心地悪くモゾモゾしていると、コーヒーを入れ終わったらしい九条が戻ってくるのが視界の端に映った。 思わず背筋を伸ばした祐羽は、側に来た九条の気配に息を飲んだ。 目の前にはジュースの入ったグラスが置かれ、九条がソファに座りコーヒーを啜った。 芳ばしい香りが辺りに漂う。 「…」 「…」 「……」 「飲めよ」 沈黙が続く中、九条が言った。

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