146 / 1012
やっぱりヤの人
そうして選んだパンにかぶりつくと、丁度同じタイミングでリビングから低い声が聞こえてきた。
「おい、報告しろ」
これは聞いていい話なのか、どうなのか?
でも九条がそこで話を始めたのだから、まぁ大丈夫なのだろう。
「あ?嘗めてんのか」
一段と低くなった声に、祐羽はパンを食べるのを一旦止める。
「全部取り込め。いいな、溢すなよ」
ここからでもドス黒いオーラを垂れ流し、何処かイライラとしているのが分かる。
そのイライラを落ち着かせる様に、無駄に長い足が組み替えられた。
まるでモデルの様だと思ったが、次の言葉に祐羽は硬直した。
「二度と歯向かわない様に…」
その時の九条の顔といったら悪魔と言っても過言ではない。
歯向かえばどうなるかを想像して、祐羽はゾゾゾーッとした。
さっきまで呑気にも殺されないだろう~とか思っていた自分の愚かさを恨みたい。
この人はやっぱりヤのつく人だ…!
あまりの怖さに、祐羽は半分食べたパンを思わず小袋に戻してしまった。
前は帰れたけれど今回も帰してくれる保証はどこにもない。
それなのに誘拐犯の親玉の元で、美味しいパンをご馳走になっているなんて何処のバカだろうか。
このまま拉致監禁になったら…と思うと嫌な汗が出てきてしまう。
そもそも九条が自分をここへ連れてきた目的は、未だ謎だ。
「え、まさか…また?」
思い当たるのはただひとつ。
「またエッチな事をしたいから…?」
言葉にしてそれがリアルになる。
そして脳裏には、あの時の痴態が甦った。
「おい、食わないのか?」
「ひゃいっ?!!」
恥ずかしい記憶に顔を赤くして悶えていた祐羽は、九条が来ていた事に全く気づいていなかった。
ともだちにシェアしよう!