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歩み寄り

泣くつもりは無かった。 けれどこの打開策の無さに頭は混乱していたし、恐ろしい口調で命令してきた九条を前に、どうしていいのか分からず。 自然に涙が出てしまったのだ。 祐羽はグスッと鼻を軽く啜り手の甲で涙を拭った。 どうしたらいいんだろ? 話は聞いてくれないし、命令だと言い放った九条はとても怖い。 泣いてもダメだと言い聞かせるけれど、1度流れた涙は止まってくれそうもなかった。 これでは考えが余計に纏まらないし、嗚咽で声も出せない。 九条がうるさいからという理由で、機嫌を益々損ねる可能性もある。 何度も目元を拭いながら、なんとか涙を止める。 その間、顔を上げることも出来ずに俯いていたので、九条の様子は分からない。 自分自身の泣き声が耳に入るだけだった。 「チッ」 不意に九条の舌打ちが聞こえて、祐羽はビクッと体を硬直させた。 まさか怒らせた? ヒックヒックと小さく嗚咽を堪えて、祐羽は次に発せられる九条のことばを緊張して待った。 うるさくて面倒なヤツ!!と、怒鳴られるだろか? それとも玄関の外へ放り出されるか? 自分がのろくて鈍感で泣き虫で面倒なヤツなのは承知しているが、怒鳴られるのは嫌だ。 九条に怒鳴られると、祐羽の心臓は麻痺しかねない。 できればこのまま玄関の外へ放り出して「二度と来なくていい」と言われたい願望に囚われた。 祐羽はもう1度涙を拭って、唇を引き締めて顔を上げた。 濡れた祐羽の目は真っ直ぐと九条に向けられていて、九条も祐羽をじっと見ていた。 あれ? 祐羽は内心ビクビクしながら顔を上げたのだが、九条の表情がさっきと少し違う様に感じて、怖がっていた気持ちが少し薄まる。 なんだかさっきと、違う…? 相変わらずの無表情に近い顔の中にも僅かな変化を感じて、祐羽は瞬きを繰り返した。 目が…目の感じが、違う…? 無意識に首を傾げた。 どこがと訊かれれば、目が違っていた。 目の中の色合いが違うと感じた。 それは前回会った時にも感じた僅かな九条の変化だった。

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