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条件

九条がこちらをチラッと見た事で、自分が不躾なまでに見ていた事に気づいて我に返る。 不機嫌にしてしまったかと焦るが、それは大丈夫だった様だ。 九条は直ぐにいつもの顔に戻ってコーヒーをひと口飲んだ。 祐羽は気持ちを切り替えると、テーブルの上のパンが入っていた袋をひとつに纏めるとゴミ箱を探す。 キッチンの片隅に見えたので、椅子から降りるとゴミ箱へと袋を捨てる。 ゴミは殆ど入ってない。 そのゴミ箱は丁寧にもセパレート式で、中で燃えるゴミと燃えないゴミになっていて意外だと、小さく驚いた。 このセパレート式のゴミ箱は九条が設置したのか、部下の誰かがしたのだろうか? それとも恋人…は、このキッチンの物の無さからして違うだろう。 この前も思ったが、この家は生活感が無くモデルルームにしか見えない。 そして改めて九条がひとりで住んでいる事が分かった。 祐羽はキッチンから戻ると、ダイニングテーブルに着いている九条から少し距離をとって姿勢を正した。 喉に張り付いた声を出すために唾液を飲んだ。 静かすぎる室内に響いたのではないだろうかと思う程に静かだ。 「あ、えっと…パン、ごちそうさまでした」 オドオドしてしまうのは許してほしい。 今はオフモードの九条で数回会話をして少しは慣れたとはいえ、相手はいつ豹変するかも分からないのだから。 そして元々、祐羽はこんなタイプなのだ。 勇気を出したと誉めてほしい。 「じゃぁ僕、もう帰ります…失礼しました」 そう言ってペコリと頭を下げた。 よし、鞄を持って早く出よう! 頭を上げた祐羽は次の瞬間、顔色を変えた。 座っていた九条が立ち上がって不穏な空気を出していたからだ。 帰っていいと言ったのは嘘だったのか? まさか気分が変わって無かった事に…いや、もしかして見送りに出てくれるのでは? 色々と頭で考えを巡らせている間にも九条が近づいてくる。 距離なんてあってないようなもの。 直ぐに目の前に九条の逞しい胸板が写りこんだ。 「家には帰らせてやる。ただし、それには条件がある」

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