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万が一

九条は、自分がこれ以上無理を言っても聞き入れてくれなさそうだ。 九条が機嫌を悪くしても自分の状況を悪化させるだけだと、大人しく観念した。 取り敢えずは、今日を平和に過ごして家に帰る事が第一の目標だ。 この後の事は、それから考えれば済むことだ。 祐羽は大きく頷いた。 「分かりました…。それでいいです」 祐羽が了承すると、一瞬だが九条の目元が緩んだ気がした。 気のせいかな? そう思ったのも束の間。 九条に促される。 「おい、家に連絡入れとけ」 「あ、はい!」 と返事はしたけれど、よく考えれば今日仮病で帰った事を母親は知らない。 それにいつも部活で遅くなるので、帰る前に連絡入れるだけでいい事に気がついた。 とはいえ、ここは連絡入れた形にしておいた方がいいだろう。 万が一、自分に何かあった時の為に…なんて連絡を入れたらいいだろうか? そうだ!と思いメッセージアプリに連絡を入れる。 『今日は中瀬先輩の家で晩ご飯をご馳走になって帰る事になったよ。だから夜はいりません』 送信。 これなら万が一自分が帰れなくなった時には、中瀬へ連絡が行く。 そうすると、自動的に九条が結びついてくるのではないだろうか? 自分的にナイスな考えだと思った祐羽は、ひとまず安心感に、包まれた。 「連絡入れたか?」 「あ…はい。…入れました」 話し掛けられる度に小さくビクッとしてしまうのは、無意識だ。 特別暴力は振るわれなくても、次は何されるのか言われるのかと思うと仕方ない。 それだけ九条の纏うオーラは、威圧感満載なのだから。 「…晩飯まで時間あるな」 九条が時計を確認して呟いた。 まだ晩ご飯というには、あと二時間は余裕がある。 「…こっちへ来い」 「わっ!?」 九条に手首を掴まれ祐羽は、体を引っ張られ驚きに声が漏れた。

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