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映画と同じ

祐羽は慌てて視線を画面に戻した。 一体自分は何を考えてるんだろう。 怖い相手のはずなのに、ことあるごとに思考が迷走するのだから困ってしまう。 映画を観よう。 集中だ。 これを観て終われば帰る事が出来るのだから。 それに観たことの無い映画。 タダで観れるならしっかり観なければ勿体無い。 それに九条の家のテレビは、通常の物よりも大きく断然迫力が違うのだ。 これほどに見応えのある映画は、一般家庭ではなかなか無いだろう。 映画は登場人物が賑やかでもなければ画面が派手でもない。 地味な淡々としたものだった。 しかし始めからある意味衝撃のある物で、それは主人公の男が刑務所から出所するというシーン。 刑務所、犯罪者…それイコール…。 祐羽は九条がヤクザだった事を改めて思い出し、蒼白になった。 この映画の題材で、九条が不愉快に思ってなければいいのだが…と不安に掻き立てられる祐羽だった。 そんな祐羽にはお構い無しに、映画の話はドンドンと進む。 チャンネルを変えようとも思ったが、リモコンが九条の元にあるのでは手が出せない。 そのお陰で祐羽は映画をジッと観るしか術はなく。 それが結果的に良かった。 すっかり先程までの九条へ不快感を与えているのではないかという不安を忘れて去っていた。 それほどに映画は魅力的で目を離せなかったからだ。 刑務所から出所した男は久し振りに出た街の片隅で、偶然見かけた少女を拉致して脅して自分の手元に置く事に成功する。 見ず知らずの男に脅された少女は、怖くて逆らう事が出来ない。 少女は、そのまま男に連れられて隣の街へと逃亡する事になる…家族へは嘘の手紙1枚残して。 「……ぁ」 その怒濤の展開に気持ちが大きく引き込まれつつも、そこでハタと気づく。 僕も脅されて拉致されて…この女の子と一緒なんじゃない?! 「!!」 バッと思わず九条を見てしまい、ヤバいと慌てて顔を画面に戻した。

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