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素敵な映画

これ…男の人が刑務所から出た所以外は、今の自分と同じパターンだ。 祐羽はサーッと青くなった。 この展開、九条も自分たちと同じだと気づいているはずだ。 それに関して何か思っているのだろうか…。 チラッと横を見たが、九条の横顔に変化はない。 よく考えれば気づいたところでやましく思う気持ちがあれば、今頃祐羽は解放されているはずだ。 そして『この映画の展開、僕たちと同じですよね。どう思いますか?』なんて、そんな事を聞けるはずもない。 祐羽は悶々としながらも映画の続きに意識を向けた。 映画の始まりは衝撃的だったし、その続きも祐羽が今まで観たことの無い物だった。 群像劇という類いの物で、主人公の男と拉致された女の子。 その関係性の変化が見所だった。 男が女の子を拉致したのは、誰も自分を省みてくれない世の中に再び放り出された孤独を埋める為の気紛れ。 そこから始まった物語だったが、人の心は複雑だった。 その中でも男の心の葛藤やそんな男に対して心が次第に寄り添い始める女の子の気持ちの変化。 男は単に粗暴な訳でもなく、それなりの信念や強い気持ちがあったし、女の子の気持ちに気づいて、その事で荒んだ心が癒されている。 女の子も初めは怖がっていただけなのに、男のちょっとした表情の変化や気遣い、優しさ。 過去の傷に触れて、それから未来を見据える強さを知り惹かれていくのが分かった。 男が転落していくまでの回想は心を抉られる。 闇へ飲み込まれるきっかけと、抗いたい気持ちが表現されていた。 「…っ、うっ、スンッ」 男の心境の変化に、祐羽は涙が溢れそうになり、慌ててグイッと手の甲で拭う。 そして女の子が相手を理解しようと努力する姿に胸を熱くさせた。

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