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乗せられたのは

少しずつ二人の気持ちが近づいて行って、寄り添い始める…。 お互いを理解し、そしてかけがえのない相手になった瞬間。 祐羽の涙がツツーッと静かに流れ落ちた。 そこからは、涙がなかなか止まらなくて潤んだ視界でその向こうを見つめた。 「うぅ~うっ…グスッ」 思わず嗚咽を漏らしながら、祐羽は画面の中の幸せそうなふたりを見つめた。 初めの頃の荒んだ男は見当たらないし、女の子の顔もキラキラと輝いていた。 心なしか祐羽の心もほっこりと暖かくなる。 「…良かった…グスッ、ズッ」 自分には大人っぽい映画だったが、充分に内容を理解する事が出来た。 自分がそうであるように、人それぞれ色々な歴史があり、思いがある。 それは外から見るだけでは絶対に分からない。 本当に人と人が心を通わせるには相手を知ろうとする気持ちが大切なのだと、祐羽は映画を通して改めて学ぶ事が出来た。 今日、この映画を観る事が出来て本当に良かったと思った。 「うぅっ、…グスッ、スンッ」 映画はエンドロールが流れ終わりを告げている。 画面の中では手を繋いで街中を何気なく歩くふたりが、ただただ映っている。 ふたりを別つ物は何も無い。 一緒に歩ける幸せ。 それが伝わってなかなか涙を止められない祐羽の頭に、大きくて暖かい物が乗せられた。 「!?」 突然の事に驚いて固まってしまう。 乗せられたそれが、軽くポンポンと頭を優しく叩く。 頭に乗せられたのが何かなんて、確認しなくても分かった。 それは、九条の手だった。

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