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無理
頭に置かれた大きくて暖かい手の平は、動かない祐羽をそのままにスルリと後頭部を降りる。
「……っ?」
一体何が起きたか理解しきれず固まったままの祐羽の涙は、驚きに自然と止まっていた。
エンドロールに視線はあるものの意識は完全に隣の九条へと向けられている。
九条の手の平は祐羽の後頭部を降りて首へと流れる。
その触れ方は凶暴な姿を持つ男とは思えないほど軽く優しい。
それが祐羽には怖くて堪らなかった。
急にどうしたというのだろうか。
先程までは全く何のリアクションも無かった男が、不意に触れてきたのだから驚くしかない。
えっ、何?
何か気に触る様な事でもしたのかな…?!
そんな焦りを覚えるが、頭は動かさずそのままに視線だけを戸惑いから膝へと落とす。
すると九条の手の平がそのままスルリと祐羽の右頬を包み込むと、ゆっくり力を込めた。
逆らえない祐羽は、向けられるままに顔を動かす。
向いた先はもちろん九条の方だった。
「!!!」
九条へと向いた祐羽の心臓がドキッと高鳴った。
決して九条が怒って怖い顔をしていたとか、拳銃を取り出していたとか、そんな事ではない。
「ち…、」
ち…近…
それは、祐羽が予想していたよりも近くに九条の整った顔があったからだ。
祐羽はその居心地の悪さと恥ずかしさに肩をすくませた。
逃げ出したくても九条の視線に縫い付けられた体は一向にいうことを聞きそうもない。
九条の顔は整っている。
祐羽も学校でイケメンと称される友達や先輩とも毎日顔を合わせてはいる。
けれど、九条とは全く同じ土俵には立てないという事を改めて全力で感じてしまう。
何度か見ているとはいえ、くっきりとした目鼻立ちの男前は大人の色香を持っていた。
そんな男は視線だけで祐羽を捕らえてしまう。
む、ムリ…。
無理なんですけど~この近さ~!!
「ちょ、え、…うっ」
心の中で叫びながらも硬直していた祐羽は、九条の顔が視界いっぱいになるのを戸惑いの目でただ見つめていた。
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